プライドと葛藤 




気が付くと、君を目で追っていた。


「夢ちゃん、明日お買い物付き合って欲しいんだけど良いかな?」

『もちろん。京子のために張り切って見立てちゃうよ!』

「やったあ!夢ちゃんセンス良いから嬉しいな♪」

『えへへ、ありがとう。』


応接室の窓から校庭を見下ろすと、友人と楽しげに会話をしている君。

名前は虹未来 夢。

クラスは2年A組。

だからあの草食動物達と居るのをよく見掛ける。


「...気に入らない。」


あの子を好意的な目で見る奴らもあの子と親しげに話す奴らも全て気に入らない。

咬み殺したくなる。


『それで、スーツを着た赤ちゃんが流暢にイタリア語を話してたの。』

「へぇ〜 凄いね!」

『うん。びっくりしちゃった。』


一言で良い。

一言話し掛ければ、僕をその瞳に写してくれる。

だけど...


「それじゃあまた明日ね、 夢ちゃん♪」

『うん! またね。』


今日も話し掛けられなかった。

校門を出たあの子の姿はもう見えない。


「...」


気晴らしに校舎の見回りをしようと応接室を出た。


  * * *

生徒は1人も残っておらず、校舎内は静まり返っていた。

草食動物達やあの子の教室に差し掛かった時、誰かが教室から出て来た。


「!」

『あっ!』


僕は目を疑った。

教室から出て来たのはあの子...虹未来 夢だった。


『えっと..実は忘れ物をしてしまって...』


その言葉の通り、君の腕の中には数冊の教科書が抱えられていた。

僕は突然の事に声が出ない。

言葉も思い付かない。


『じゃあ...失礼します。』


何も言わない僕を不思議に思いながらも軽く会釈をして去ろうとした君。

僕は咄嗟に声を掛けた。


「...気をつけて帰りなよ。」


君は一瞬驚いた顔をしたが、微笑んでくれた。


『ありがとうございます。さようなら、雲雀先輩。』


その笑顔が脳裏に焼き付き、更に君から目が離せなくなった。


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やっと君の瞳に僕が写った。

プライドを捨てるのもたまには良いかもね。








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