『っ!』


私は跳び起きた


『またあの夢...』


嫌な夢を見るのは決まって満月の夜

それはあの夜も満月だったから



  * * *


『パパンお帰りなさい!』

「ただいま、零」


仕事から帰って来たパパンをママンと出迎える

毎日の日課だった


「お疲れ様、あなた
今日はあなたの好きなボンゴレパスタよ」

「おお、それは嬉しいな」

『ねえ、パパン
私、パパンの似顔絵描いたの!見てっ』

「本当かい?じゃあリビングでゆっくり見せて貰うとしよう」

『うん!』


リビングに行こうとした時玄関の扉を荒々しく叩く音がした


ドンドンッ


「こんな夜遅くに誰だ?」

「ご近所さんかしら?」


パパンが扉に近付く

私は何だか嫌な予感がしてママンのエプロンをギュッと掴んだ


ガチャリ


「どちら様で...」

パンッ


パパンが扉を開けた瞬間、渇いた音が響いた

それが銃声だと気付いたのは、パパンが鮮血を飛ばしながら倒れてからだった


「いやあぁぁ!しっかりして、あなたっ!!」


ママンが必死に揺さ振っても、パパンは動かなかった


「我々はエストラーネオファミリー」


パン

無情にも二発目の銃声が響いた


『あ..あ...っ』


パパンとママンは折り重なるように倒れていた

二人の血は玄関を赤く染めた


「喜ぶが良い
我がファミリー繁栄の材料となることを」

『!』


満月に照らされたその男の顔はツギハギだらけだった

クロロホルムが染み込んだ布で口元を覆われた私は意識を手放す他なかった


満月の夜
私の幸せな生活は終わり、地獄の日々が幕を開けた




『本当に嫌な記憶...』


忌まわしい力を得た私はエストラーネオを壊滅させ、過去を清算した

その結果、復讐者の水牢に捕われることになったが、沢田綱吉の支援で無事に釈放された

再び平穏な生活が戻ったが私の心は解放されていなかった

いくら清算しても私は過去の恐怖に囚われている

一生忘れることのない、満月の夜の悲劇


『満月なんて大嫌い』

「また起きてるんだね」

『!』


突然聞こえた声に振り向くと、黒い着流し姿の雲雀がドア元に立っていた


『いつの間に...』

「今日もだね」

『...?』

「いつも眠れないみたいだね、満月の夜は」

『! どうしてそれをっ..』

「君のことなら何でも分かるさ」

『...』


真っ直ぐ見つめてくる雲雀の視線が居心地悪くなり、目を逸らす

それはほんの一瞬だったがいつの間にか雲雀は目の前に来ていた


『ちょ、ちょっと...』

「満月が嫌いなら、」

『え...?』

「満月が嫌いなら、雲で覆ってあげる
満月が見えないように、僕が君を覆ってあげる」

『っ!』


私は抱き締められていた


「そんな過去なんか忘れるくらい、幸せな未来にしてあげる」

『雲雀...』


目の前に広がるのは、心地好い闇だった


『ありがと...』



満月の雲隠れ


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妖しく輝く満月の光も
脳裏に焼き付く忌まわしい過去も
全て "黒" が飲み込んでくれた

優しい "雲" が月を隠してくれた






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