「…もう行くのか。」 『ん。巨人は待ってくれないからな。』 ジズが壁内で過ごす時間はほんの一瞬。報告を済ませたら即刻壁外に戻れと口煩え上層部にも苛つくが、それ以上に従順な飼い犬に成り下がったジズが許せねえ。 『そんな睨むなって。ただでさえ凶悪顔なんだから。』 「うるせえ。駄犬が。」 『酷えなー。』 「そんなに"兵器"がいいのか?あ?」 『まあ、甘受してるっちゃしてるな。でも…』 「でも、何だ。」 『でも"心"までくれてやった覚えはない。確かに心臓は取られちまったが、心は渡してない。俺は俺、ジズだ。』 だから安心しろよ、幼なじみ。 20pも上にある笑顔に足が出かけたが、壁外に行く前に負傷させるのは如何なるものかという理性が働き、蹴り上げるのは見送ることにした。 コイツは兵器じゃねえ、兵士だ。痛みも感じるし、怪我だってする。 「…次の報告はいつだ。」 『1年後、今日みたいな星が綺麗な日かな。』 「ハッ、彦星にでもなるつもりか。」 『ふはっ、じゃあ星迎えは頼んだぜ?』 そうして再び黒狼は壁の内に、銀狼は壁の外に。2匹を隔てる壁は高く、分厚い。しかし2匹は笑い飛ばした、壁如きで絆(腐れ縁)が揺らぐか、と。 「『死ぬなよ。』」 じゃあな、また1年後。 |