※REBORN、雲雀、ギャグ甘


やかんが音をたてて蒸気を吐き出した。呆れるほど広いこの和室を温めているのは、やかんをかけているだるまストーブとこの炬燵だけ。雲雀さんがエアコンは生ぬるいから嫌いだとか、ホットカーペットなんて猫のための敷物だとか訳の分からない難癖を言うせいで、今も摂氏10度しかない。そんな部屋に私が好き好んでいるだろうかいやいない。あ、今の反語形いい感じ。やだ私ったらこんな時まで受験生なんだからっ!
……なんてことは置いておいて、どうしてこんな所で私が受験勉強をしているかというと、それはひとえに目の前で超絶不機嫌な顔で私の手元を凝視しながらみかんを剥いている雲雀さんのせいである。こんな寒いってのに着物に羽織だけってこの人は一体どういう神経してるんだ!子供体温か!なんて言えませんよはい。
時は数時間前、入試を明日に控えた私は雲雀さんが帰って来たのにも気付かないくらい集中して勉強していた。

「…ねえ」
『……』
「……ねえ」
『……』
「…咬み殺『雲雀さん帰ってたんですかお帰りなさいぃいいい!!!!』
――チッ
「もういいよ。じゃあね。」
『!?ちょっ、雲雀さん!?すみませんでしたっ!!私が悪かったですっ!!なのでそんな怒んないで下さいよーっ』
「うるさいよ。何?僕に咬み殺されたいわけ?」
『いや、それは勘弁して下さい…私が悪かったですって!ごめんなさい!』
「やっぱ咬み殺す。」
『すみません申し訳ありません私が悪かったですごめんなさいお休みなさい…ん?違うな…』
ジャキッ――
『わぁああああ!!トンファーしまって下さい!!お願いします!!何でも言うこと聞きますからぁ!!』

まさに私の頭頂部へ振り下ろされようとしていたトンファーがぴたりと止まる。頭の上の威圧感に私は息を呑んだ。

「……」
『……』
「…何でも?」
『何でも!』
「…本当に?」
『本当に!』
「…ふーん。じゃあさ……」

あの時の雲雀さんの顔を私は一生忘れないだろう。あんな黒い笑顔、今まで見たことない。そういう訳で私は雲雀さんの命令、…いや「言うこと」を聞いて一日中雲雀さんの部屋で過ごさなくてはいけなくなったのだ。

「ちょっと。」
『はいっ何でしょうか!』
「手、止まってるけど。」
『あ、いやこれはその休憩というやつで…』
「休憩?ならお茶持ってきてよ。」
『すぐにお持ちします!』

もう嫌だ……
雲雀さんにじっと見られながら勉強に集中できるはずがない。何あの不機嫌オーラ!?炬燵にみかんって最強の癒やしアイテムのはずだよね?なんで最凶の苛立ちアイテムになってるんですか?それに着物似合いすぎなんですよ何なのあの色気は!あれで見つめられたら恥ずかしくて集中できないんじゃぼけぇ!!

「何してるの?早くしなよ。」
『い、いま行きます!』

慌てて奥の台所から雲雀さんのお気に入りの湯のみに入れたお茶を持って炬燵に向かうと、すごく怪訝な顔をされた。

「何してんの?」
『え…?いや、お茶を持ってきたんですけど…』
「僕、一人で飲むなんて言ってないよね?」

……え?
これは私にも飲めと言っているのか?
いや待てそれとも誰かを呼んできて、私が勉強してる間一緒にお茶を飲ませろと言っているのか?
どっちだ?どうする私。どうするわた……
グイッ
ストン。

「…面倒くさいから君がこれ飲みなよ。」

上から聞こえる雲雀さんの低くて優しい声。ふわっと石けんのいい匂いがして、背中がとても暖かい。雲雀さんの湯のみが私の手に握らされていて、さっきまで冷たかった指先がじん、と痺れる。あったかい。あったか……

『って、えぇえええええええええ!?!?!?!?何してるんですか雲雀さん!!離して下さい!』
「今度は何だい?君って子は本当に忙しないね。今日は僕の言うこと聞くんでしょ?」
『いや、聞きますけど!それとこれは別というか、「聞きますけど何?」
『…何でもないです。』

そう。ならいいよ。と言って雲雀さんは満足そうに笑った。さっきまでの不機嫌はどこへやら。髪の毛に吐息がかかってくすぐったい。ちょっと肩をすくめたら、そこに雲雀さんの頭が乗ってきた。

「君さ、ほんと馬鹿だよね。普通休憩なら自分の分も煎れてくるでしょ。」

あ…ほんとだ。私、無意識に雲雀さんのしか煎れなかった。本当は休憩する気なかったんだよね。
雲雀さん気付いてたんだ…
…ていうか首にさらさらの雲雀さんヘアーがっ…!顔近いしお茶持ってるから動けないしこれかなり密着してるしめちゃくちゃ恥ずかしいんですけどぉおおお!?!?

「馬鹿はどう足掻いても馬鹿なんだから、今更勉強しても無駄な努力だよ。さ、寝ようか。」

ふと我に帰ると雲雀さんは私の勉強道具を片付け始めていた。あなた、自分が眠いだけでしょうが!まだ十時半だよ?どこの小学生だっ!!その手には乗れない!

『いや、待って下さいよ!私これ受からないと大学生なれないんですって!今どき大学行かないと就職も厳しいんですよ!それに大学生になったらあんなことやこんなことができるようになるんです!離して下さい!』
「炬燵のスイッチどこだったかな…」
『雲雀さん聞いてますk「僕の言うこと、聞くんだよね?」
『イエッサー!!』

終わった…
バイバイ私の大学生活…
これで私も晴れてニート、じゃなくて自宅警備員の仲間入りですねちくしょーっ!
ん…?
ちょっと待てよ…という事は私部屋に帰れるんだよね?そしたら勉強ができるんだよねっ…!
ああ神様仏様雲雀様!ありがとうございます!!へへへ。これで暖かい部屋でリラックスして勉強ができますねっ……
グイッ

「どこ行く気?」
『へ…?』
「どこに行く気なの?」
『私の部屋に帰らせていただこうと思いまして…』
「一緒に寝るに決まってるでしょ。あ、でも僕の眠りを妨げたら咬み殺すからね。因みに僕、木の葉が落ちる音でも目が覚めるから。」
『はぃいいいいい!?!?いくらなんでも勘弁して下さ「約束したよね?」ジャキッ
『はい寝ます。寝させていただきますとも!!!』

結局、私は雲雀さんと一緒に寝た。ここまで振り回されるともう無我の境地で、せめて明日のために睡眠時間だけは確保したかったから、私は雲雀さんに構わず寝た。寝倒してやった。何回か雲雀さんを蹴っ飛ばした記憶もある。それでも目が覚めたのは朝だった。何度か背中があったかくなった記憶も…ある。雲雀さんの腕の温度も…覚えている。
不器用だけど優しい雲雀さん。大学に行くのはあなたに見合う女になるために自分を磨きたいからなんて、とても言えない。でも、でも私、絶対合格して雲雀さんとの未来をもぎ取ってくるからね!!


イエスマン?
ノー!
オンリーユー!




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『えっ!?もう9時!?寝坊したぁああああああ!!受験もしないで浪人になっちゃうよ!?馬鹿の極みだよ自分!!』
「朝っぱらからうるさいなあ…黙りなよ。」
『ちょっと離して下さい!早くしないとガチで浪人決定なんですよ!』
「その時は僕が責任取ってあげるよ。…分かったら早く布団直して。」
(『今のって…プロポーズ…?』)



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