「もやもや」
梅雨のただなか、きかないエアコンに彼はご立腹。
「むんむん」
しめったシーツにだらりとのびた手脚を見る。
「だらだら」
俺はといえばまだシャツも着たままで、うつぶせの彼に跨って全身もみほぐし三十分、0円である。週も半ばの深夜だ。五分でいいから代わってほしい。とはよもや言いだせない。
うっかりを装って、彼のちょっといいところに指を圧しこむ。彼はヒワアと言って身をくねらせる。
「こらこら」
「ついつい」
そのまま更なるところへ邁進せんとする俺の手をするどくはたいて、彼はくるりとひっくり返る。もう終わりということらしい。いつもより五分早い。
押しのけようとして俺の左胸につけた手が、おそらく尋常でないパルスを感知する。彼はあきれたように眉を下げる。
「……どきどき」
そうしてそのまま、上目づかいで見あげてくる。俺の影のなかで、暗がりのねこみたいに瞳孔がひらく。
「むらむら」
「やだやだ」
彼はそっぽを向いて、心底(たぶん本気で)嫌そうな感じを出してため息をつく。汗っぽい額に前髪がはりついている。そこへキスをする。彼ははたはたまばたきする。あごにこそこそ睫毛があたる。
おおげさに音をたてて唇をはなすと、彼は眉根を寄せて口もとをもじもじさせる。
「しぶしぶ」
「はいはい」
「しぶしぶ!」
「はいはい」
彼の肌も、自分の肌もべたべたする。
しょうがない。べたべたしてるのだもの。