「俺の友達の友達は有名人だよ」






"私"は何処にいる。

ここにいるはずなのに。昨日までここにいたはずなのに。今日にはもういなくなっている。我武者羅に走る。

視界は涙で全部ぼやけているがそれでも立ち入り禁止となっている屋上への階段を上り屋上へと繋がる鍵の閉まっているドアの隣の、窓を開けて飛び出た。

ポツリと頬に雫が零れ、涙と混ざり伝った。

そんな私へと空は雷の音と光を浴びかせてくる。なんて嫌な空だろうか。そして、なんて嫌な神様なんだろうか――――。


視線を落とした先には恐怖という傷を植えつけた竹中半兵衛が、立っていた。

彼は私をとらえる為かこちらに歩み寄ってくる。

――恐怖を感じすぎているのかはわからないが、妙に落ち着いていていた。

そして落ち着いた声を出すのは私。本当に、変な感じだ。コレほどまでに、落ち着いていられるなんて変だね。

「・・・私はきっとあんたがどんなに暴力ふるっても心に傷をつくっても思い出さないよ」

豪雨の中、鳥肌が立つ。雨に濡れて寒いからではない。

向かいに立っている半兵衛から殺気とでもいえばいいのか、そんな鋭いナイフを無数に突き刺されるかのような冷たく痛い感覚が身体中に響く。

もう、目の前にいる。

それでも口が止まらない。

「だって、あんたのいってる"つかさ"に会えないって言われちゃったもん。だからあんたは一生、あの子には会えない。どんなに私を殴っても犯しても、殺しても・・・あの子はあんたには会いたくないだろうから。私はあの子の記憶を思い出すこともないよ」

「もう話さなくて良いよ」

その一言だけで息が詰まる。

それなのに、私の口は勝手に動くのだ。

「残念だったね。でもいい気味じゃん?あの子を使い勝手の良い玩具としか思ってなかったようだし。あの子もあんたに我慢し切れなくて逃げて死んだんだし?ほんと、いい気味。はははっ、それで今度は私を玩具にして自分を慰めようとしてる。何処の餓鬼だろうね。他人の気持ちを理解もしないで"自分だけ傷ついています"って。呆れる。だからあの子も自殺なんて意味のないことをしたんだ」

「黙れ!」

「―――――、ぅ・・・!」

細い腕だというのに力があり、何を食べたらそんな強くなれるんだろうと首を絞められながら私は目の前の顔の色がない半兵衛を呆然と見ていた。

まるで、他人事。ううん。他人事。もはや、"私"がわからない私は他人事でしかないのだ。

「思い出せないならそれでいい。僕に忠実になるように調教するまでだよ。壊れても良い。それに、"つかさ"に会えないなら似せるまで・・・」

"似せる"。

偽者をつくって何が変わるのだ。何も変わらない。どこかが絶対に気に入らなくて壊してしまうだろう。ああ。けどそれは私になるわけで、私が壊されるってことになる。

ああ。なんだかな。もう。いいや。どうでも良いや。偽者でもいい。私が存在できるなら、偽者でも。

良いかなあ。

首を絞められたまま唇が重ねられる。器用なやつだ、などと思いながら抵抗なんてめんどくさくて相手の舌を口内へと受け入れてしまう。

口の中で切った部分が開いたのか口の中で血の味がした。

「―――違う」

「――――っう」

ぐわんと世界が回り、水溜りのできているコンクリートの床に放り投げられた。

鈍い痛みに耐えながらも起き上がるとそのままフェインスへと押し圧せられてしまう。網目が食い込み痛い。

「僕の知ってる"つかさ"は最初は拒絶しながらも受け入れる。あんな、最初から受け入れるような淫乱なことはしない」

「――――ひ、ぁ」

氷のような冷たい手が私の太ももをさすり、スカートの中へともぐっていく。

そして下着越しに茂みの奥にある蕾を引っかいた。甘い痺れが伝わるがそれよりも"痛み"のほうが強くフェインスを掴む手に力がこもる。

「"つかさ"はやや強めで痛いのが好きだ。嫌だ嫌だ良いながらも嬉しそうな顔をする」

「ひ・・・・・・痛っ、い!」

下着の隙間から指が秘部へと突き刺さる。こんな状況の中、ぬれているはずがなくその擦れる痛みに悲鳴をあげた。

そんな私を気にかけることなどせず奥へ奥へと押し込んでいく。

「処女だったんだね。悪いことをした、ふふ」

全然そんな事、思ってる言い方じゃない。雨で冷えた身体に、内股に伝う熱い感触。処女膜を破られ血が伝っているのだろう。

その血によって滑りがよくなったのか指を動かし始める。

中を広げられる感覚に身震いした。

「あ・・・や、やめ・・・――――――っあ!」

勢い良く指を抜かれた感覚が身体の芯を砕き、力の抜けた私はその場にしゃがみ込む。

それと同時に聞こえる"つかさ"と呼ぶ声達。雷が近いのかどこかに落ちて少し揺れた。



血のついた指を雨で洗い流す半兵衛の視線は私が飛び出てきた開いた窓に向けられている。

すぐにそこから覗くのは、慶次で顔を出した慶次の横から佐助が飛び出してきた。次に家康君。

慶次も窓から飛び出し、数秒遅れて政宗が鍵のかかっているドアを蹴破ってやってきた。

「竹中半兵衛!!つかさを放しやがれぇ!!」

蹴られ壊れたドアが轟音を立てて床に落ちる。横にいる半兵衛と私をみつけた政宗。

佐助や慶次、家康君も私へと視線を向けていて、犯されかけたという羞恥がこみ上げ下半身を見られないように身を縮めた。

・・・それももはや意味のないことだったけれど。

私が犯されかけていた事を一番に悟った佐助は近寄ろうとしていたが私と彼の間には半兵衛がいて、低い声で一言「退け」と紡ぐ。

皆が私を助けようとしてくれている。

自分勝手なりにそう思ってしまった私は、顔を歪ませてしまい見られないようにそむけた。

それで言い聞かせる。

彼らが助けに来たのは"私"じゃなくて、"つかさ"なのだと。

"私"じゃないと。


そんな強情も次の言葉で折れて壊れてしまうのだけれども。

"私"を否定した政宗が雷の音よりも大きな声で叫んだ。



「俺達が助けに来たのは"今"を生きてる"つかさ"だ!!つかさ!お前はお前のままでいい!!俺はなあ!お前のままのお前が好きなんだよ!!」