「世界は僕を中心に公転してるのさ」






―――つかさが逃げ去った後の保健室で、数人の男子が集っていた。


前田慶次、徳川家康、伊達政宗、猿飛佐助といった"昔から"つかさ"との深いかかわりのあった存在たちだ。

その中で、つかさに手をあげてしまった政宗はつかさ以上に頬を青あざができているぐらいに腫らしていた。佐助が怒気を押さえきれない声色で告げる。

「――本当だったら、殺してやりたいぐらいだっ」

見舞いにやってきた慶次と家康もそれから直ぐにやってきて見舞う相手がいない事と佐助が殺気だっていることで何か起きたのだと理解し共に政宗とつかさに何が起こったかを聞いた。

そして、聞き終えたと同時に佐助が思いっきり殴ったのだ。

政宗も殴られる気でいたのか避けずに防御をとらずに受けた。

「確かに、つかさちゃんに前世の記憶がないってことに不満を覚えた!けれどもそれが"普通"なんだよ!前世の記憶を持たないのが"普通"なんだ!!なのに、つかさちゃんを、"今"のつかさちゃんを否定して・・・竜の旦那!アンタもあの豊臣の軍師と同じだ!!」

佐助達は、物心ついたときにはすでに前世の記憶を持っていた。どうしてこうなったかだなんてわかりはしないが確かにもって生まれてしまった。

ただ、周囲に見知った人物たちがあつまっていてその中には同じように記憶を最初からもっていたりとした人物が数人そろっていた。

しかし残酷なことに、全員が覚えているというわけではなかった。佐助の上司であった真田幸村。幸村は性格や態度こそ一緒なれど、前世のことは何一つ覚えてはいなかった。

お館様と慕っていた武田信玄も己や幸村との熱いつながりがあれど、上杉謙信との深い友好があれど、前世の記憶は一つも覚えていなかった。

それは確かに"今"という現実を生きていて"前世"もった彼らは慰めあうように、必然的に仲がよくなった。

高校へ上がり、あのつかさと同じ存在をみつけ驚愕し、前世の記憶を持ってほしいという期待をもったが、つかさは覚えてはいなかった。

それに不満を覚えた。

自分が好いていた人物が前世からの己を覚えていないだなんて、と絶望した。

けれど、それが"普通"なのだ。

幸村やお館様のように、"前世の記憶"を持たないのが当たり前の事であって、好いてる人が前世を覚えていないからって裏切られた気分になるのはおかしいのだ。

"前世"は過ぎ去った過去なのだから、"今"を生きている彼らを"拒絶"するのはおかしいのだ。

「・・・同じじゃねえ」

黙って聞いていた政宗が小さく囁いた。

「あの野郎と一緒にすんじゃねえ!!」

佐助の胸倉を掴み、殴りかかる。突然の事で避けきれず喰らってしまった佐助だが、反撃といわんばかりに殴り、政宗を吹っ飛ばした。

殴られ床に倒れた政宗はゆっくりと上半身を起き上がらせ口端から伝う血をぬぐった。

「・・・確かにあいつを否定した時もあった。だがよ、目の前で"前世"と同じ動作されてみろよ。記憶を思い出しそうになってる兆しをされてみろよ・・・。どんなに目の前にいるのがつかさじゃないと認識してても・・・」

「それが同じだって言ってんだよ!同じ動作?同じ仕草?アンタは前世の"つかさ"だってことを前提にして見てるだけだ!!良く見てやれよ!少しだけど、少しだけど動作も仕草も違う!たとえ前世がつかさだとしても生きた道は同じじゃないんだ!良く見れば、全然違う!」

「・・・・・・」

「アンタは――」

「・・・佐助、そのぐらいでいいだろ?」

慶次の制止に深く息をして、落ち着かせる佐助。それでも怒りが収まらないのか歯を食いしばり未だ床に座っている政宗を睨んでいた。

「猿飛、そのぐらいにしておけ。今はつかさを探さないといけないぞ」

「・・・・・・・・・わかってる」

続いての家康の言葉にやっと気持ちを表面下に落ち着かせた佐助。

「・・・竜の旦那。原因はちがくてもこのままじゃ、つかさちゃんは前世の"あの子"と二の舞になっちゃうって事理解・・・してよね」

それだけは俺様、勘弁だから。そう、廊下へと飛び出していく。

「・・・ちょっとおれも目、覚めたかも。おれもどこかで前世のつかさと今のつかさ一緒にしてた。それに・・・半兵衛も傷つけないって返してくれたから・・・・・・情けないなー」

たはは、とだらしなく苦笑をもらす。

「なに、今ならまだ間に合うぞ。絆ってのはそう簡単に壊れはしないからな!」

「・・・そうだね。ということでおれたちもつかさを探しに行くから」

佐助と同じように廊下へと飛び出していく二人。

一人残った保健室の中、政宗は盛大に拳を床へと叩きつけた。床にひびが入りへこむが、そんな事どうでもいい。

立ち上がりつかさを見つけ出す為に走り出した。


「―――くそったれ!」

それは、つかさを傷つけた己に対しての言葉。

今と昔の区別ぐらいついているはずだった。しかしそれは本当に"はずだった"で、結局は心のどこかで納得できず、昔のつかさと同じように静かに首を振って否定した今のつかさに期待してしまったのだ。

そして乱心した状態で言われた言葉が、すべて政宗の本心に突き刺さり、それ以上が聞きたくないのだと怒鳴りはたいた。

fool(馬鹿)は己だったのだ。


今のつかさは何処にいるだろうか。

きっと・・・苦しんでいる。泣いている。

存在を。
己や、半兵衛に否定されたのだ。

いや、もしかしたら己等全員に否定されていると思っているかもしれない。


前世のつかさならそれでも笑ってる筈なのに。

脳裏に浮かんだ"つかさ"は大量の涙を流し、泣いていた。



外は、そんな今のつかさの気持ちを表すように雷が鳴り、曇天の空から雨粒が零れ落ちた。