『そして十数年後』







「それが私たちが付き合ったきっかけかな」

随分と長くなってしまったが、心の中だけに留まっていた記憶が表にでてすっきりしたような恥ずかしいようなそれらが混ざった感じだ。

コーヒーを飲んで一息。テーブルの向かいには、灰色の長髪の可愛い可愛い我が子が座っていて、半兵衛の容姿の綺麗さが似たのかとても美人だ。

名前は、鈴という。

今年で高校に入学する我が子は、一時間ほど前に「高校の時の思い出を聞かせてほしい」と言って来たので私と、半兵衛にとって一番の思い出を話してやることにしたのだ。

大人しく聞いていた鈴は、微妙な顔をしていた。

それはそうだろう。出会いにセクハラされて、学校で暴行され、屋上では犯されそうになったのだ。

どうしてその結果が、結婚し一人の子をもつ夫婦となったのかそれが不思議でたまらない。

私も不思議に思うが、くさい言葉で言うなら"運命"というものだろう。

「なんていうか、あれだね・・・嫌よ嫌よも好きのうちってやつ?」

「そんなところかなー。あ、けど鈴はちゃんとした恋愛しなさいよ〜?」

そこでヘヘンと自慢げに笑う鈴は、紅茶のコップを手で挟みはにかみながら告げる。

「あたしねー、将来慶次さんと結婚したいなー、なんて」

思わずコーヒーを吐き出しそうになった。

慶次は、今も放浪癖があり世界をまわるカメラマンをしている。

そんなに儲かっているわけでもなく、時々、命の危険もあるという仕事だが、世界中の綺麗なところ等を見て回るのが楽しいらしく誇りのある仕事だよ!と語っていた。

そんな慶次は日本に戻るたびに私たち家族の家に上がりこむのだ。そして私や鈴に体験談を話す。ほんと、自由人だなと思える。

どうして慶次なのか視線で訴えると口を尖らせながら視線を逸らす。

「――だって、慶次さん楽しいし優しいし・・・そんな人が三十歳にもなってまだ独身なんだよ?おかしいよ!だからあたしがお嫁さんになって、一緒に世界を回るんだー」

「へー・・・・・・。頑張ってね」

「何その遠い目」

「いや。鈴が好きになったならどんなにじじいでも良いんだけれども・・・・・・半兵衛が」

まだ三十というのにまあ酷いことを言ってみる。

それは娘をとられたくない嫉妬心から来るものだから許せ慶次、と頭の中に浮かんだ慶次に笑っておく。


「・・・・・・・・・が、頑張る」

半兵衛と慶次は前世から仲が凄い悪いらい。

今もそれなりに悪く、家に慶次がいると温度が5度ほど下がるくらいだ。

そんな半兵衛がまず直ぐに許可するわけもなく、恋愛の始めに関しては母親の私に似て苦労する性質らしい。



「――――僕は、許さないよ」

そんな冷ややかな声で、笑っていた二人の笑みが凝結してしまう。

玄関先のドアノブを怒りで引っこ抜いたのか、ドアノブを持った状態で不気味な微笑を浮かべる我が夫、半兵衛は「次、前田が来たら容赦しない」とフラフラとした足取りで自室へと歩いていく夫。



知的性格だった半兵衛だったが、流石に可愛い可愛い娘の事になると先が見えなくなるらしい。

運が悪いらしく玄関が開きその先には笑顔で「おっじゃましまーす」と入ってくる慶次。

肩にはどこかで拾った小猿が「きー!」と鳴いていた。


「おっ、鈴ちゃん一段と可愛くなったねぇ。ほら、そろそろ高校でしょ?これ早いけど就学祝い!」

「ありがとうございます、慶次さん!」

嬉しそうに頬を染めながら慶次へと近づく鈴。


前田慶次ー!!!と怒号の叫びを上げて部屋からでてくる半兵衛のおかしさに笑いながら今日も、今日が過ぎていく。