「流行に遅れてるのこそ流行」






助けに来たのは"今"の"私"―――――。

「本当に・・・?」

本当に、"私"を助けに?

未だ、信じられない私へと次々と言葉が、"つかさ"じゃなくて"私"に向けての言葉が降り注ぐ。


「そうだよつかさ!おれたち馬鹿だからさ!今まで何回か前世の子みてたけど、おれたちは"今"の"つかさ"を助けに来たんだ!」

「つかさ戻って来い!ワシたちは、"今"のお前と楽しく日々をくらしたいんだ!」

「俺たちは」

睨んでいた佐助が座り込む私に柔らかい笑みを浮かべてくる。

「俺たちはね、"今"の"つかさ"ちゃんが好きだから今、ここにいるんだよ」

何もいえなかった。何も。言葉をだそうとすると訳のわからない単語がとびだしそうで。

それだけ私は認めてくれた事に希望という歓喜を感じていたのだ。涙が雨粒と混ざる。口に入ったそれはしょっぱくて、でもそれが何故か嬉しかった。

フラリと立ち上がり彼らのもとにいこうとした私を引き止めるのは半兵衛。彼ももはや必死なのか悲痛な顔で私の腕を掴んでいた。

「――い、かないでくれ・・・。つかさ、行かないでくれ!」

あれだけ私を否定していた半兵衛は、今度は泣き出しそうな顔で私を引き止める。

けれども、きっと彼は私の中にいる"つかさ"をみているのだろう。

そこまで、"つかさ"を想う彼が哀れで仕方ない。"つかさ"も半兵衛と一緒だ。

自分だけ、苦しいと思ってる馬鹿なんだ。


「つかさ!」

カッと頭上が光った。その光に対応できなかった私は足もとの轟音と立ってられないほどの痺れに短く叫んだ。

そして崩れていく足元。

腰に誰かの手が巻きつきこれ以上落下しないことがわかり目を開けると目の前で瓦礫と共に落ちようとしている半兵衛。


「半兵衛!!」

咄嗟に手が伸びて、彼の手を掴んだ。

屋上へ続く階段は下の階から二段ほど離れているため落ちればまず重症をおってしまう。それは――――嫌だった。

私に手をつかまれ力なくぶら下がっている半兵衛の両目は大きく開かれて疑問を浮かべていた。

「―・・・・・・どうして」

その言葉に「私は普通の人だから目の前で人が大怪我するところなんて見たくないの!」と言いたかったのだが、あの子が決心した笑みを浮かべているのが見えた。



重なる私とあの子――――。

「半兵衛――。わたしは半兵衛に"今"を生きて欲しいから・・・。そんな、顔しないで、半兵衛」

「――!つかさ・・・?」

私を抱えている腕の数が増える。引き上げられていく私と半兵衛。雨との区別はつかないが潤んだ瞳を見る限り泣いている半兵衛。

この人は、こんな顔もできたんだね、と前世のわたしが嬉しそうに私の中で囁いた。

「わたしはいつでも半兵衛の中にいるよ。だから、半兵衛は"今"を生きて。"今"を生きて、幸せな人生を生きて―――」


半兵衛もやっと引き上げられ、じっと私を見つめる。私は私で、こんな所であの子が出てくるとは思わず、馬鹿だなと苦笑をもらしてしまった。

とりあえずなんとかなっただろうと安堵の溜息を吐くと「つかさ」「つかさ」「つかさちゃん」「つかさ!」と私の周囲に群がる男子たち。

「あれ?私、今とってもオイシイ位置なんじゃないの?」と冗談を言うと「お馬鹿」と佐助が苦笑しながら小突き、慶次と家康は爆笑して、政宗は「寝言は寝て言え、この馬鹿が!」と頭にチョップしてきた。

そんな"いつもの"反応を返してくるものだから私もついつい笑ってしまい―――呆然としてる半兵衛を見て言葉を紡ぐ。

「半兵衛。私は半兵衛の知ってる"つかさ"にはなれないけどね、"今"を生きる"つかさ"にならなれる。それじゃあ、だめかな?」

だから一緒に"今"を生きよう。

そうすれば、きっと半兵衛も幸せになれる。それで半兵衛が幸せになればあの子もきっと幸せになれる。


夕立だったのか、雷はすでに彼方のほうで微かに鳴り、雨も降り止み空は朝時と同じ晴れ渡った空だった。

つかさ!虹だぞ!と家康君が空を指して、それにそって見上げると大きな虹が空に半円を創っていて感嘆をもらす。

誰もが黙って見上げる中、細い笑い声が耳に入る。

「く・・・くくく・・・くははは!」

笑っていたのは半兵衛で、今までみた笑顔なんかよりも穏やかで優しい笑みを浮かべていた。

「僕は、馬鹿だったらしい」

「え、いまさら」

つい友達感覚でツッコミを入れてしまい口を押さえたが、半兵衛はむしろ嬉しそうに私を見た。

「だからね、つかさ。今までの事を水に流して僕と、正式にお付き合いしてくれないかな―――?」


その言葉で、半兵衛はその場の男子達に穴の開いた床に突き落とされることとなってしまったが、すでに下に人が集っていたので傷はなかった。




―――今回の、騒動は半兵衛が一部を隠しすべてを語り、竹中半兵衛は解雇処分となり私たちは日常へと戻った。






今や、その記憶は古いものとなり暇なときに思い出しては一人小さく笑う。

それは、過激でどんなものよりも衝撃的な、私たちが結ばれるきっかけとなったお話。