突然やってきた彼は太陽が好きだそうです。

けれども太陽の暖かさが届かないくらい、彼の心は冷えていました。



02《冷たい太陽》





「――ということでミチコさん、彼は新しい世話の人です。これからご一緒にお願いします」

昼になると私の身の回りの世話をしてくれる介護人のミチコさんがやってくる。

ミチコさんは世話好きの主婦さんで、安い給金だというのに笑顔で引き受けて私の元へとやってくるのです。

―――数少ない、心から信頼している人です。


ミチコさんはこの時代にしては少しばかり違う服装を気にせずによろしくね、と陽気に頭を下げた。

「あたくし、ミチコと申します。お名前、よろしいかしら?」

車椅子に座る私の隣でムスッとした顔で立っている彼は、短く、淡々と名乗った。

「・・・・・・松寿丸」

私も今この場で彼の名前を聞けたので、忘れないように何度も何度もその名前を反芻した。

「松寿丸、くんね。介護の事はわからないっていう事なので、まずお家の案内と世話に関する説明をするわ。わからないことがあったらあたくしにきいてくださいな」

はじめに玄関から―と松寿丸さんを連れて行くミチコさん。

松寿丸さんは最初一歩も動こうとはしなかったが、40代主婦の強気な態度には負けたのか最終的に引っ張られて連れて行かれてしまう。

彼がいなくなった所で、小さく笑った。

「くすくす・・・――――。」




彼はいつまでここにいられるのだろうか。

彼はきちんと帰れるだろうか。


神様。

私の足を命の代わりに持っていった神様。

どうか。

彼を無事にもとの世界へ帰してあげてください。

彼が戻る代わりに何かをもらうだなんてことしないでください―――。