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風邪はもう随分良くなった。
怪我もそんな痛くない。

熱を出して三日目晴れて私は学校に行くことができた。もうちょっと休みたかった。けど熱もないのに家にいたら父に怒られる。

「よし」

とか言いながら学校とは反対方向の図書館に足をむける。なんとなく学校に行くのは止めた。本をずっと読んでたいわけだ。留年?ギリギリまで休むのがいいんじゃないか。

図書館に入ると受付のいつものお姉さんが今日もさぼり?と苦笑をみせてくる。学校に連絡してもいいのにしない受付のお姉さんはとてもいい人だ。

そうそう、と笑って私のお気に入りの指定席に向かう。



だが、しかし、そこに人が座っていた。


眠たそうな目をした人で日当たりのいいその席で足を伸ばして本を読んでる。いつもそこに私がすわってるのでここによく来る人はまず座らないしこんな朝からだと人も少ないから余計に座らない。だからそこに座る人なんていないと思ってたわけだけど。

ペラリと人がほとんどいない空間の中でページをめくる音が聞こえる。

取られてしまったもんは仕方ない。この本棚の向こう側にあるソファーにでも座る。そうそこで今にも寝てしまうんじゃないかって男の人を一瞥してそちらに向かった。

「電話かかってこないように電源きっておこ」

前、サボってたら父から電話がきたのを思い出す。どうやら教師が父に連絡つけたみたいで唯一の家族である父に怒られてしまえば頭を下げるしかない。

だって父は一人身で育ててくれたんだ。愛情も注いでくれてる。父のいうことだったら聞いてしまう。だから電源を落とす。

「さて今日はなによもうかなー」

サボるのが目的なんで本はなんでもいい。けどつまらない本よんでもつまらないだけだから面白そうな本を探す。そんな大きくない図書館の中でフラフラしながら本を探していると「地獄」という題名の本に目が行く。

昨日、あの優しい人が自分は獄卒だと言っていた。
何気なく手をとり目次をみるとそこに”獄卒”と書かれた部分。ペラペラとそこまでめくる。

獄卒とは牢獄て囚人を取り締まる下級役人であり獄丁ともよぶ。仏教では地獄で死者を責めるという悪鬼。義理や人情を解さない人を罵る言葉にも使われる。
ここでいう獄卒とは地獄で死者を責める悪鬼の事をさす。

鬼とは”隠”が転じたものであり元来は姿が見えないもの、この世ならざるものである意味がある。そこから人の力を超えた意味となった。

――そこから獄卒云々からだんだん地獄の仕組みに話が変わっていきその地獄の種類の多さにそっと本を閉じてしまう。


とりあえず獄卒っていうのは死者にケツバットかます存在だってことでいいだろう。うん。私、勉強は嫌いなんだ。社会、とりあえず足し算と引き算と掛け算ができればいいと思ってるうん。

「ん?」

他の本を探そうとふと本棚をみると題名も何も書かれてない黒い本。作者も書かれてないし変な本もあるもんだな。

どれ、中身読んでみよう、か。


横から手が伸びてきて表紙にも何も書かれていなかった黒い本が抜かれた。横を見れば私の指定席を独占していたたるそうにしている男の人。彼は無言でそれをもっていってしまった。

何か、一言、言うことないのかい。人が読もうと手を伸ばしたものだぞ。腹立つな。けれど口にだしてまで言うことでもない気がして本棚で隠れるまでじーっと睨んでおく。


「??」

あーあとその抜かれた部分をみたらあれを抜いて空いたはずのスペースが消えていた。さっきここにあったんだけどな。
あった分その空間空いてるはずなんだけどな。

なんだかもうこれから毎日変なことおこりそう。

あーやだやだ。


もうちょっと奥の方の本でもみるか。

日差しのあまり当たらない本棚の列へ向かう。ここまでくると日頃から日が当たらないせいか湿った匂いがする。本を見ていくと古い本がそろっていて一つ手にとって中身を読むと難しい文体でかかれてる。読むのに頭を使うのはパス。すぐに本に戻した。

隣の本棚をみるとオカルトやホラーな本が揃っていた。また手にとって読むとよくわからないやり方とかかいてあって本格的すぎてこわい。というかこれをあつかってるこの図書館凄い。こわい。うわあ。


それでもサボる口実として本を手にとっているので簡単にペラペラとめくっていくと”蠱毒”という項目に目がいった。