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風邪をひきました。
そりゃあずっとひどい雨に打たれ続けてたからね。当たり前だよな。

学校休みだやっほい。
父は仕事中で静かな空間の中でピチャンと水道からこぼれ落ちた水滴の音が響いた。冷えピタを頭に貼りつつ携帯をいじくる私。

熱で頭がふわふわしているけどもこうやって一日中自由な時間があるって最高だ。昨日のことなんて忘れてしまえ。

なんて思うものの、なかなか忘れられないあのバラバラ殺人事件の光景。私も怪異で出会った奴に興味本位でつついて破裂させてしまったりなんてあったりもしたけどそれとは比べようがないくらいグロテスクだった。

そのせいで昨日それなりに高価な肉を食えなかった。


ちくしょうめ。


グキュウウ。と腹の虫はなった。たった一日ほどで肉を克服したのか私の腹よ。朝から何も食べてないことまで思い出した。

体を起こす。起こすと頭痛が強く響いて痛い。それでも何か食わないと治りはしないから冷蔵庫を開いた。昨日のおかずのあまりがある。それに、玉子がある。なんか作るのもめんどくさい。
私は生卵をごはんの上にかけて醤油をかける。おかずは昨日の余りで、完璧。

卵黄を箸で破ってかきまぜる。一口くちにいれてうめえ。

卵かけご飯って美味しいよね。海苔とか納豆いれてもいいよ。うん。

そうしてテレビのリモコンに手を伸ばした。電源ボタンを押したけどもつかない。おかしいな。何度押してもつかないから起き上がりテレビ本体の方の電源ボタンをおした。

プツリとつく。
リモコンの電池がないのかね。なんて本体側のチャンネルボタンに触れた時。

ついた画面に映ったのは見知らぬ男が画面いっぱいに映っているもので、一瞬びっくりしたがホラー番組でもやってんのかと画面から離れようとした。が、うでが掴まれた。

何にって画面に写ってる男の手にだよ。

二次元の世界においでよってか。勘弁してよ。私そんな暇じゃない。
というか、誰か、たすけて。



『うまそう』
「あんたは不味そう」

逃げようと足を踏ん張るもののなかなか離してくれない。髪もはえてない男は錆びてる汚れ、血ではないと思いたいその汚い姿で画面に引きずり込もうとしている。テレビは中くらいの大きさだから私の体は通るだろうけど、そんな展開嬉しくもない。

ましてやこんな汚い男に引きずり込まれるなんて!引っ張られる手がしびれてくる。風邪が災いしてか踏ん張っていた足がゆるくなっていく。

やばいぞ、これなんて思ってるともう片方の手がなんと首を掴んできた。男ののびた爪が鈎爪となり首に食い込む。痛い。痛いから。やめ。

首が引っ張られ画面にはいる。

うわ。体が薄っぺらくなったみたいな感覚。

妙な感覚に力が抜けて、そのまま私はテレビの中へと引きずり込まれてしまった。また顔から床におちた私は掴まれていた手の感触がないことに気づき目をあける。

薄汚れたコンクリの空間。所々赤黒い染みが残ってる。
また現象にはいったのか。昨日の今日ですか。早くないですかね。文句を言っても仕方ない。神様なんてこっちの言うことなにひとつ聞いちゃくれないしね。あーあ。今度はどんな目にあうのか。

最近の現象は過激すぎてついていけないよ。


『おにごっこ。つかまったら負け。おまえ、たべる』
「・・・・・・拒否する」
『よーい、すたーと』

拒否権ないのですか。そうですか。フラフラする体を起こす。コンクリの空間はとてつもなく広くて障害物もなくて扉もない。かんぜんに箱の中だ。これ完全に死ぬだろう。死しかないだろう。

だって時間制限もないんじゃないこれ?



そうしてる間に男がこちらに走ってくる。速度は早くなくて遊ばれてるんだってことが目に見えてわかる。それに対して腹立ちはするけど、それよりも捕まったら喰われるみたいなんで逃げる。

つうか逃げきれねえな。これ。
私病人よ?しかも熱も下がってないのに長くなんて走れるわけがない。


『女の肉、やらかい。すき』
「・・・」
『食べながら、ヤルのすき』


「・・・!?」


ニタァと笑う顔が気色悪い。
というか今とんでも発言しだした。

熱でフラットしていた私だがその発言にぞぞぞと怖気を感じて産毛を逆立てた。つかまったら殺されるどころか屈辱を味わいながら食われ死ぬことになる。無理!父を残してそんな死に方したくない!