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「珍しいです。災藤さんだ」
「・・・やあ」

私は、壊れたと思ってたけれど完全には壊れていなかったみたいだった。

慰めてくれた木舌。優しい木舌。彼は、言った。私の申し訳ない程度に残っていた理性を正常心を打ち砕いたのだ。彼からの告白は、私が理性と狂性の間でくるませるためにこうしてきたと。してやられた。私は完全に木舌を信じていたのに、裏切られた。

壊れたと思っていたのに、まだこうして涙が流せることに驚いた。


「・・・泣いているのかい?」
「私は・・・・・・・・・ここから出たいんです。こうやって待つのは、いや」
「・・・すまない」
「いいんです。ただ、独りは寂しい。みんな来てくれるけど、来てくれるけどいつまでも一緒にいてくれない。それが悲しい寂しい」
「・・・」
「ずっと一緒にいたい。一緒に、一緒にいっしょにいっしょにいたい。だから外に出たい」
「・・・水咽」

災藤さんはくるっていないようだった。もうよくわからないけど。

「・・・・・・一週間後、閻魔庁の方から君の契約が破棄されると連絡がきた。そうなれば、君は今までのように再生しなくなるだろう。ただの亡者でも再生はするが限度がある。その限度は、彼らの所業に、耐えられない。君は消滅する」
「しょうめつ・・・ははっ、おかあさんと同じ。ああ、けど、そうなったらみんな悲しむ。大切な人がいなくなるのは、とても苦しい。穴がぽっかり開いて埋めるのにとても時間がかかる」
「・・・」

憐みの目。
それがひどく悲しい。止まりかけていた涙がまた流れ出した。
どうしよう、止まらない。
とまらない。

とまらない。

「・・・・・・どう、して・・・・・・・・・こうなってしまったんだろう」
「・・・」
「・・・・・・・・・・どうして・・・」

もう誰も助けてくれない。
誰も助けることができない。
みんな壊れてるから。狂ってるから。だから、どうしようもない。仕方ない。そうなってしまったのは、きっと私のせいなんだ。原因はわからないけれど、私が原因だということはわかっている。

もう、終わりにしたい。
ずっと一緒に。こんなところにいつまでもいるのはいや。

みんなの。

「・・・・・・・・・・・・災藤、さん」
「・・・・・・なんだい」
「私の最後の願い、聞いてくれます?」
「・・・ああ」

だから私は。

「私どんな時でもみんなと一緒にいたい。だから、*********」
「―――・・・水咽・・・・・・、いいのかい、それで」
「はい」

私は。
願いを口にする。

きっとこれならみんな幸せになれる。

ずっと私と一緒にいることもできる。
これがいい。

これが、良い。





獄卒は再生する。死がない。
細胞は新たに再生し身体を元に戻す。

けれど、それでも穴はあるものだ。


私の願いは災藤さんがかなえてくれた。災藤さんが肋角さんに伝えて少し館の中が一部倒壊する喧嘩になったようだけれどそれでも私の願いなのだ、と伝えれば了承してくれた。ああ、ありがとう。
肋角さんが来て、私の願いを直接伝えた。彼は何度も何度も何度もそれでいいのか、それでいいのか、と尋ねてきた。それは恐れているようで不安げに見てくる赤い瞳は綺麗だった。

けれど私の決意は変わらない。
このまま壊れて、さらに壊れて存在すら壊れて、物言わぬ存在となるならば。
そうなるならばいっそこうした方が私も彼らもみんな幸せ。


その日、初めて肋角さんが座敷牢の中にはいってきた。ここに閉じ込められて初めて肋角さんがはいってきた。彼もとうとう壊れたのだ。
肋角さんは私を強く抱きしめた。骨が折れたけど構いやしない。抱きしめられて接吻をして胸に顔を埋めて、お別れを惜しむ。

「皆に、話しておこう」
「はい、ありがとうございます」
「・・・寂しいな」
「いいえ、寂しくないです。私は皆の中でいつまでも一緒に存在し続けるんです。これほど幸せなことはないんです」
「そうか、そうだな」



「はい。だから、美味しく料理してくださいね―――?」




私は愛してくれたみんなといつまでも一緒に。
朝昼晩ずっと一緒に。怪異退治に行くときも、寝る時も、任務で大けがをした時もいつでも、一緒。





「あは・・・はははははっ・・・はははっはははははははははは・・・ぁぁあああぁぁぁああぁぁあぁ・・・っあ」




ありがとう。






ごめんなさい。