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「・・・ふふ」

笑いがこぼれる。何が楽しいのかわかんない。けれど楽しい。みんなの記憶。楽しい愉しい記憶。私を愛してくれる記憶。愛してくれてる。私は幸せ者なのだ。それが永遠に続くんだ。父に愛されたように、母に愛されたように。彼らは最後まで愛せなくて死んでしまったしもう出会えないけれど。

けれど代わりに仲間や上司が愛してくれる。

「ふふふ・・・ぁはは・・・」
「水咽」
「――斬島だ」

たまにしか来てくれない斬島。まじめな顔はここにくると苦しそうな顔に変わる。私の事は嫌いじゃないといった前。けれど今回も何か思いつめた苦しそうな顔をしている。
彼は座敷牢の中に入るのを戸惑ってるみたいだった。何故。どうして。まるで肋角さんみたいだ。肋角さんも中に入らない。入るのを戸惑っている。

もう、理由は、わかってるんだけれど。肋角さんは怖いのだ。狂気が私を食い破ろうとしているのが。手をかけてしまうのが。だから、”誰かが狙っている”という。その誰かは肋角さんなんだ。

戸惑っている斬島に優しくこえをかける。


「中にはいれば?」
「・・・・・・・・・俺は、どうすればいい?」
「・・・入ればいい」
「本当に、お前は・・・望んでいるのか?俺は、俺は・・・こんな、歪んだものを仲間であり妹でもあるお前に向けるなど・・・、嗚呼・・・俺は、」

「・・・」

柵越しでそう思いつめて伝えてくる斬島。彼は苦しんでいる。理性と狂性の間でもがいている。けれどいつまでもそうしても苦しいままだ。苦しいままなんだよ。私もそうだった。理性がこれは違うと言っていて、狂性がこれで正解だとささやく。どっちにもつけないことは苦しいし、どっちについても結局は首を絞めるだけ。

だから、だったら、苦しんで壊れるなら、愉しんで壊れた方がまだ救いがあるでしょう、斬島?

私は知っている。
みんなポケットに鍵をしまうってこと。

私は手を伸ばして彼のポケットから鍵をとった。斬島が目を見開き奪い返そうと思ったが、その前に素早く牢屋の鍵を開ける。キィ。

「入ればいいよ、斬島」
「っ・・・」

柵の扉を開けて、自分の位置に戻り座る。私は両手を左右に伸ばして斬島に来るようにうながした。
斬島の青い目が暗くなる。

理性はこうして飲まれていくんだ。
私もそうやって理性が少しずつ殺されていった。

みんなに。


「水咽・・・、すまない。俺は。すまない」
「いいんだよ、斬島。私は皆が大好きだ。愛してる。だから、こんなのへっちゃらだ」

斬島がフラリと中にはいってくる。目の前に立つ彼の目は濁った。
カナキリの柄が握られ金属の怪しい光がみえる。一閃。私の腕が切れて吹っ飛んだ。もう片方の腕も。痛い。けれど痛みはもう快楽でしかない。だってこの痛みも愛の”証”でしかないのだから。

肩が。乳が。腿が。足首が。指が。どんどん斬られていく。血があちらこちらに飛び散って私の意識もあいまいだ。これだけ刻まれれば死ぬ。けれど狂気に取りつかれた斬島は死してなお切り刻むんだろう。その妖刀で。それでいい。
それでいいよ、斬島。
もう、みんなで壊れよう。



私は意識を手放した。