座敷牢に入れられて何日か。腹がへった。死ぬことはないがずっとグーグーと音がなって胃が縮む痛みはこたえる。そんな中、足音が響くのが聞こえた。 誰か来た。助けに来てくれた! そう鉄格子にしがみつき闇の向こうを凝視。そこからうっすらと姿を現したのは佐疫。座敷牢にいれられている水咽の姿を見ても驚きもせずやってきた。いい匂いがする。 「久しぶりだね、水咽」 「さ、えき・・・佐疫、ねえ、いつまでここにいればいいの?ねえ、助けてよ・・・」 「―――・・・うっとりする」 「・・・はい?」 嬉しそうに微笑んで頬を赤くしだす佐疫。なに、どうしちゃったの? 彼の心情を理解できない水咽は、目の前で微笑みこちらを幸せそうにみる佐疫に嫌な予感がする。 「ごめんね。助けるのはダメだよ。助けたら、水咽の可哀想な様が見れなくなっちゃう」 「・・・・・・何いって、」 あの優しかった佐疫が何を。 鉄格子から身を放して、距離をとる。 「水咽が悪いんだよ?いつまでも、自覚しないんだもの。だから、ねえ、おれ達・・・」 とうとうおかしくなっちゃったみたいなんだ。 そう幸福を抑えきれないという風にふふふ!と笑う。 水色の瞳が愉悦を混じらせながらこちらをみる。視る、それだけで幸せに溺れていた。 「おなか減っただろう?ご飯もってきてあげたよ」 先程からいい匂いがしたのはそのせいか。 佐疫に警戒しながらも”ご飯”に目を向ける。おにぎりと卵焼きとアップルパイ。きっとアップルパイは佐疫の手作りだ。 変な、変態な事を言いながらもこうして優しくしてくれる佐疫。しかしやはりどこかおかしい佐疫。 水咽はそっと近づき、恐る恐るおにぎりを手に取った。何もされなかった。 ただ、楽しそうにこちらをじっとみている。 「・・・はやく、食べなよ。さめちゃう」 「・・・う、うん。ありがとう、佐疫」 「いいえ」 おにぎりを口にいれる。塩加減がよくておいしい。 何日かぶりのご飯に口は自然と動いてどんどん噛んで飲み込んでいく。途中佐疫から飲み物を渡されて受け取って飲む。レモン水だ。ほんのりレモンの味と酸っぱさが口に広がった。 「美味しい?」 「・・・うん!おいし、―――っ」 三個目のおにぎりに手を伸ばそうとした時、突然のめまいに視界が歪む。歪んでぼやけてよく見えない視界の中、佐疫の嬉しそうな楽しそうな笑みがみえる。とてもそれが歪んで見える。 次第に体中が熱くなり息を吸うのもつらくなる。胸が痛い。抑えてうずくまっていると頭上から笑う声。佐疫だ。 「あぁ・・・可哀想に、痛い?苦しい?言わなかったのは悪かったと思ってる。けれど、苦痛にゆがむ水咽が見たくて・・・ごめんね」 「あっ・・・っ・・・な、に・・・・・・ど、く?」 「そうだよ毒。ずっと、ずっとずっとこの毒を使える日を待ってたんだ。きっかけはいつだったかな。君が亡者によって毒を喰らった時だったかな。体中が激しい痛みを伴う毒だったよね。おれもおかしいなって思ったんだ。苦痛に苦しんでもがく水咽をみて、なんとかしなくちゃって思う反面、興奮してたんだ。涎が分泌されて、もっと見てたいなって思っちゃったんだよ。それがきっかけで毒を作ってみることにしたんだ。もちろん水咽に使える機会はなかったんだけど・・・・・・、ふふ」 「う・・・いた、い・・・佐疫・・・、ぁ」 「水咽はずっとここで過ごすから。肋角さんも、外に出さなければ何をしてもいいって言ってくれたし。・・・ねえ、その毒美味しい?きもちい?おれ、今の水咽をみて興奮しちゃってやばいんだ」 「・・・!・・・っふ・・・ん、く・・・!」 「水咽の為に全部おれが作ってきたんだ。全部、ちゃんと、食べてね?」 「――――っぁぐ」 痛い。痛い痛い痛い。苦しい。死にたい。 けれど、死に至るほどの毒ではなく、死に身を投げることもできやしない。徐々に痛くなっていく体に、心臓に、床に転がりその痛みが再生により中和されるのをただひたすらに待った。 「次は、どんな毒をつくってあげようかなあ」 そんな言葉は、苦痛に耐えている水咽の耳には入らなかった。 |