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館に戻る。


時刻はもう夕刻を過ぎていて食堂は閉まってるだろう。
現世で何か買ってきても良かったがお金を持ってくることを忘れてしまい何も買えずじまいとなった水咽は木舌ならいつもインスタント常備してそうだからゆすりにいこうと考え、任務の報告をしに執務室へと向かった。

扉の前に立つと肋角さんの声が聞こえる。誰かと話しているのか。

お偉いさんが来るという話は聞いていないのでとりあえずノックをする。



声が停まった。


「あー、水咽です。任務の報告にきたんですけど・・・」

「――ああ、入れ」
「はーい・・・?」

返事をしながら扉を開けた。この館にいる獄卒が全員集合していてびっくりして足を止めてしまった。

それぞれの視線。

なんだか現世の圧迫面接をこれから受けるような恐ろしい気持ちに陥り、恐る恐る中に入っていく。ヘラっと手を振ってくれる木舌だけが唯一水咽の緊張を和らげてくれた。

「あー・・・その・・・今回の任務は、何事もなく終えることができました。詳細書類は明日中に届け、ます」
「よくやった。・・・水咽にも言っておかねばならんな」

肋角さんの真剣な声。目の前に出されたのは赤い印で最重要任務と押された封筒。たった三年しかここで働いていない水咽は初めて見るものだった。



「・・・最重要任務・・・」
「そうだ。私を含むこの館の獄卒はすべてこの任務にでることになる――」
「私もですかね」
「いいや、お前はこの館の番をしてほしい。内容を読んだ限り時間がかかりそうで一日二日では戻ってこれないかもしれんからな」
「えっ」
「それに帰還したばかりのお前をこれにつき合わせるのも、酷だろう」
「けど館の獄卒は全員でないといけないんじゃ」
「一番若いんだ。それぐらい許されるだろう」
「はぁ」
「明日朝一に任務に出る。水咽、そしてお前たちも頼んだぞ」

「「「「「はい!」」」」」
「はーい」

水咽に伝えたかった内容も終えたのだろう。

煙管を吸い始め「解散だ」と言い放った肋角さんの合図でそれぞれが扉から出ていく。

ぞろぞろと出ていく様子を呆けてみていた水咽は、なんだか明日から大変なことになるんだろうなあ、と目をパチクリとさせた。

「水咽」
「へ、はい」

同じように遅れながらも部屋を出ようとした水咽を呼び止める肋角。赤い目がじっとこちらを見つめていた。目が離せない。


「――・・・泣くなよ」

「やっ、数日ぼっちになったからって泣いたりは、しない、ですってば・・・!」


任務で館が静かになる。それに寂しさを覚えて泣かないでくれよ、とそういうつもりで言ってるように聞こえてなりませんよと返事をかえした。

ここに来て一年くらいの時は寂しくて何度かここにきて寝てしまったり、肋角さんに甘えてしまったりとあったけども。

三年、獄卒の仕事をやってきてだいぶ心身ともに強くなったのだ。今更泣かない。

少し、頬を赤くさせながらも返事を返した水咽だったが、フッと小さく微笑むだけの肋角さん。何処か悲しそうにも見えてなんだろうと首をかしげた。



「・・・そうだな。すまんなそれだけだ」

「お、じゃましましたー」



それだけの会話。
水咽は首をかしげたまま扉をでた。



水咽を待っていたのか目の前には木舌と佐疫。

「おつかれさま」
「水咽任務お疲れー」
「二人共お疲れ様です。そうだ木舌さん夕飯ください」
「残念今インスタント切らしてる」
「ちっ」

まさかの在庫切れに舌打ちをすれば引きつった笑みに変わった木舌。

この三年足らずで水咽は俺の扱い少し雑になったよね、と両手で顔を隠し泣いたふり。だって木舌酒癖悪すぎるんだもん、と返せばごもっともデスとさらに沈む。

「お腹すいてるなら食べに行く?」
「酒飲みに行こう!」
「佐疫食べに行こう!木舌はいらないです」
「ええー、俺も行くからね」
「お酒飲まなければドーゾ」
「やったー」
「話まとまったなら行こうか」

水咽は館の外、獄都へとでた。夕暮れがもうじき終わる空には星が輝いている。

夜へと変わっていく街の中も夜の活気で溢れていく。




様々な存在が歩く街で三人は夕飯を食べに夜の街へと身を投じた―――