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ビチャリとズボンが濡れる音がしたけどそっちみち服も下着も全部濡れてるんだ関係ない。唯一武器になる傘だけはこうして手にきちんと持っておいて、休憩しよう。

・・・どっからあれついてきたんだろうな。

雨は相変わらずやまないし。水分が体温までもすってちょっと寒いし。あれかな風邪ひくかな。パンツまでびしょびしょで気持ち悪い。

ここまで濡れてると御札もビチョビチョで使えるのかどうか怪しい。数珠はおいてきちゃったし。

ここから抜け出したら今度は一年とかになってないか心配だ。そいたら完璧留年じゃないか。

・・・や、抜けられるかどうかもわかんないけどさあ。


たまにキイキイと泣きながら黒いどっかの煤の塊みたいな奴が走ったりしてくる。ポンポンはねてどっかいってしまう。見えない存在からの笑い声。とても楽しそうでなにより。たまに声をかけてくるけど無視。こういう現象たちは私の反応を楽しんでるからね。してやってもいいけどやかましいほどの構ってちゃんに変貌するからめんどい。

現世までついてきたらなおさらめんどくさい。

目の前を深緑の制服をきた男がスコップをもって走り抜けていく。

顔はとても楽しそうにしていてまてーまてー!とか言いながら去っていった。人型なんて初めて見た。相当強かったりするのかな。もしかしてあれがこの現象の元凶じゃないよね。だったらちょっと無理じゃないかな。
そいや、あの泥まみれの女の姿みないな。諦めたのか。それとも見当たらなくて泣きながら迷ってるんじゃないかなんて。

想像したら可愛かったけどんな展開はない。現実だし。実際あんな顔してるし。あれで泣いてたら血の涙だしてるよ。こわいわ。

・・・そろそろ行こう。

立ち上がる。温度でいくらか暖かくなっていたお尻あたりの水分が空気でさまされて冷たい。尿意感じるよ。立ちションはちょっとやだな。人がいないのはいいんだけど、あの変な奴らに見られてるのが嫌だ。

また目の前を黒い物体が通った。
しかも増えてる。分裂でもすんのかね。なんて思ってるとおお!?と声が上がった。さっきの制服の奴だ。口は弧を描いたまま目を見開いてる。

日本人でないのか黄色の目がらんらんと輝いてる気がする。

「おまえ、生者じゃん!なんでここにいんの?!」
「・・・」

ついてこられたらたまったもんじゃない。無視だ。無視無視。
踵を返して無言ではなれる。けれどそいつはついてくる。こっち来んな。

「無視すんのかよー!おいー!」
「・・・」
「ひっでーな!じゃあオレも力づくだかんな!」
「わっ・・・!」

腕をつかまれた。しかもすんごい力で骨がミシミシ軋んだ。痛い。このやろう。

そこからさらに今度は持ち上げられて肩にダランとのせられた。腹が痛い。しかも背後の方に頭が逆さになるから血がのぼる。傘で尻を叩いてみたけどいってー!と笑うだけだ。頑丈だなこいつ。ケツにブッ刺したらさすがに痛がるかな。

「生者は保護すんのがオレ達のルールだからな、暴れんなよ!間違えて殺しちゃうかもしれないしな!」
「間違えて殺すんですか・・・」
「だって、その傘の先っちょケツにさそーとしてんだもん!マジでやんなよ!?」
バレてた。

彼に揺さぶられて少し。急に動きを止めた彼。前方が見えないから何かいるのか、何かが起きようとしているかもわからない。ただ、耳に届いたピチャリという覚えのある音にとうとうあの泥女と出くわしたのだと理解する。あの泥女倒したらここからでれるかもね。

「おお??やっとみっけた!」

彼はその泥女を探していたみたいで唐突に私を落とした。コンクリに顔面がヒットしてふぐおと変な声がでてしまった。超痛い。やっぱこいつのケツに傘刺してしまおうか?

「あぶねーからさがってろよぉー!」
「はあ」

スコップを手に持った。まさかそれで倒すんだろうか。それ何かを殺す道具じゃなくて砂利や土を掘るための道具だった気がする。おかしいな、私の知識がおかしかったのかな。
それが振り下ろされた。

「!?」

スッポン!という効果音をつけてしまいたいぐらいに泥女の首がスコップごときで切り取られ宙に跳ねた。スコップってそんなに威力あったけ?あれ?
そこで終わらず何度も何度もスコップを振り下ろすその彼の姿はまさしく鬼。しかも顔は笑顔のママなのだからなおさら。これがサイコパスって存在なのか。なんて。うああ。骨がバキっていってる。グチって肉が音をたててる。最高にグロテスクで私吐く。
壁にうええええと吐き出した。グロ。まじで。やばい。

嘔吐している方に気が向いてて何回スコップでメッタ斬りにしたのかはわからない。けれど幾分か落ち着いてどうなったのか涙目でみるとビニール袋にスコップをつかって肉片となった沼女を入れていた。どこにつれていくつもりなんだろう。

服も顔にも血のような黒い液体が付着してた。肉片などをとった地面には黒い液体がただあるだけ。全て回収したのかビニールの口を締めた彼が機嫌よさそうに「よっしゃー!」と声を上げてこちらをみた。私、殺されるのかい?

「しばらくすれば元に戻るからそれまでそこにいろよ!オレ、こいつ連行しなきゃなんねーし」
「・・・・・・生きてるんですか、それ」
「生きてるわけねえじゃん亡者だし!」


そうバカじゃねーのお前!みたいにケラケラ笑い私の頭をポンポンと撫でた。
スコップを肩にのせ、空いた手でビニール袋を持ち、その場でスウっと消えてしまった。彼は一体なんだったんだろう。いつのまにか雨は止んでいて厚い灰色の雲の合間から青い空が覗いていた。
人の声が聞こえる。車のクラクションが遠くから聞こえる。私はあの現象からでられたんだと空を見上げていた。


そして風邪をひいた。