2-12





―――今日、ひとりで任務に行ってきた。

だいぶ慣れてきた鎖鎌。それを手に持って亡者を捕まえにいった。任務に出る前の肋角さんに心配そうにあれこれと言葉をもらった。それをひとつひとつ心に刻み出かけた。夜の現世でひとりあるく。まるで生前の頃のときのように。

それでも目の前に視える黒い霧が異端な存在であると理解しているところ、自身は獄卒でありあの世の住人であることがわかる。

今まで任務についていったことはある。補助として先輩である彼らと共戦した。亡者を捕獲したこともあった。けれどそれらは先輩達が手助けをしてくれたからできたこと。



今。この場に。


水咽。私ひとりしかいなかった。




緊張。



不安。

それらに焦らされ大きく鳴る心臓を抑えながら亡者が隠れている場所へと赴く。
静かだった。自分自身の息が鼓動が煩いと感じるほどに。

亡者は逃げ場を失い部屋の隅に小さくなっていた。
未遂といえど生者を殺そうとした亡者は黒い存在となっている。いやだ。いやだいやだ。と口惜しそうに泣いている。ああ。父のようだな、と思いながら鎖で亡者を縛った。

「さびしいさびしいひとりはいやだいやだ」
「大丈夫。寂しくはないよ。あの世にはたくさんいるから」
「いやだいやだしにたくない」
「もう、死んでるんだよ。さあ、この世にお別れだ。そんで、あの世にこんにちわだ」

そうして引きずり獄都へと戻る。



亡者を引渡し、無事任務を終えた水咽は館に戻り肋角さんの元へと。





「――以上が今回の任務報告です。後で書類で詳細をまとめます」
「ご苦労だった。初の単独任務だったわけだったが・・・どうだった?」
「・・・んー・・・すんごい緊張しました」

生前のどの経験よりこの任務は緊張した。

「けど、あれだ。やっとスタートにたった感じがします」
「そうだな。これでお前は雑用係ではなくて獄卒の一人として立つことになる。これから更に強くなれ」
「はい!」

肋角さんのすっていた煙管から煙が吐き出される。席から立ち上がった肋角さんは後ろの棚の引き出しを開けてひとつの小さな長方形の箱を取り出して、水咽に渡した。

「祝いだ」
「!う、あ、りがとうございます!」

まさか祝いの品をもらうとは思っていなかった水咽は白い頬を桃色に染めながら両手で大事そうに受け取る。うずうずとした表情でそれを嬉しそうに見ていた水咽。

その顔に満足気に肋角はまた煙を吐いた。









任務を終えて部屋に戻った水咽。

明日の仕事に備え制服を壁にかけて風呂に入り就寝の準備を始める。

「・・・獄卒になって一年。周りから見ればまだまだあかんぼう。けど、一緒にいてくれる。おとうさんとは、一緒にいることはできないけど・・・仲間・・・がいる、んだよな」

父とは一緒にいられない。けど、仲間がいる。同じ不死で同じ志で尊敬する人も同じな仲間だ。水咽は箱の包みをはがした。箱を開けるとそこには蝶と彼岸花の飾りが着いたかんざし。この髪をまとめられるように、と。

あいにくかんざしは使ったことがないからわからないがきっと仲間に聞けば教えてくれる。


箱の蓋を閉め直して机に置いた。

布団にはいる。





そして、私はまた明日を迎えるためにそっと目をとじた――――――