2-11





斬島は悪霊を受け渡しに。

田噛と佐疫は水咽を逃がさぬように両挟みでつかみあげた。
あまりにも騒ぐので田噛が握力で喉仏を潰して黙らせる。斬島が着いた頃には水咽は枯れた葉のように生気の欠片もない存在になっていた。


「ついたぞ」

「――ここがふじゅきゅうあいらんど」



きゃあああ!楽しそうに悲鳴が各地から上がっていてそれとジェットコースターの稼動音を聞くたびに水咽は身を縮こまらせひいいいと挙動不審に陥る。

左右にはそれをおもしろがる田噛とだんだんと可哀想に思えてきたのか大丈夫だからとあやし始める佐疫。斬島は初めての遊園地にその静かな青い目を輝かせていた。

「さっそくジェットコースターのるか」

と指をさしたのは垂直に近いんじゃないかというジェットコースターで水咽が泣き出した。泣き出して佐疫に助けを求め始めた。

しかしそれも興が乗った田噛からしてみたらとても面白いものでうでを引っ張る。

「いやだいやだいやだいやだいやだ!」
「ふふ・・・田噛なんだか可哀想になってきちゃったからやめてあげたら?」
「・・・・・・んだよ、つまんねー。斬島、乗りに行くぞ!」
「ああ」

夢中になっていたおもちゃを取り上げられたかのように不機嫌になった田噛はそれでも、と斬島をつれてあの長蛇の列に並びに行く。

斬島はなぜあんなにも平然としていられるのだろうか。
水咽がずっと怖がって泣いている間も変わらずの表情で様々な絶叫系を見ていた。いや、平気だ。斬島は絶対平気なのだ。高い所からおとされたって言っていた。むしろ乗ってもだからどうした?って気持ちになりそうな気がするんだ。水咽は周囲の音に怯えながらそう考えた。

「乗るのに時間かかるかもね。・・・水咽、あれしようか」
「絶叫系は嫌だから!嫌だからね!」
「射的だよ、射的」
「ひいい」
「あはは・・・」

射的、といっているのにそれにさえ怯え始める水咽。
それほど怖いらしい。可哀想に震えてる姿がだんだんと可愛く見えてきて、手を引っ張る。ブルブルと震えた手を手汗をにじませながらもしっかり握ってくれている。

それに少しばかり嬉しくなった佐疫は射的店の前まで来てお金をはらい鉄砲を手にもつ。一回二発で200円。

手にもつと本物と重みが全然違う。

試しに一発うってみる。やはり本物よりも軽く反動もかなり小さい。それに少しばかり標準がずらされているようで、手の中にある鉄砲を確かめながら一番大きなぬいぐるみが商品の小さな小さな的を狙った。

パコン!コルクの弾が小さな的に見事ぶつかり倒す。興奮して驚いたのは店員さんだった。

「すごいな!一発だ!」

そう目を輝かせながら商品のぬいぐるみを佐疫へと手渡した。

「ほら、水咽」
「ひいい・・・ぬいぐるみ」
「もう、絶叫系にのせようとしないからさ元に戻ってよ・・・」
「うぐ・・・う、ありがとう」

半べそかきながらもくまのぬいぐるみを受け取った水咽はそれをギュッと抱きしめた。ちょっと可愛いかも、と思いながらも二発目の獲物を求め正面に向いた。この中の商品で、どれが水咽を喜ばせるんだろうか。まるで人間のデートみたいじゃないか。獄卒だというのに変なものだ。

「あ、外れちゃった」

考えの方に集中が向かっていたのだろう。照準が不安定なその玩具の銃から飛び出たコルクは狙っていた商品の右下へとぶつかって終わった。
店員に銃を返して水咽を見ると大事そうに胸元にしっかりと抱きしめて様子をみていた。

佐疫達と制服を着ているから少し女性として違和感があるけれどこれでしっかりと女性用の服を着ていたらきっと花のように可愛らしかったのだろう。

「そういえば水咽は生前は遊園地に行ったことあるの?」
「んー・・・どーだったかなあ。・・・んんー」

記憶を探り思い出そうとする水咽。
遊園地のアトラクションを知っているのだから行ったことは一度くらいあるだろう。

しかし水咽は眉間に皺を寄せてしばらく唸ってから「忘れた、思い出せない」と諦めた。きっとそれほど幼い頃に行ったのだろう。ならば”忘れてしまっても”仕方ない。

「佐疫はー?」
「おれは・・・生前はないだろうけど任務で何回か行ったし興味本位でも何度か」
「興味・・・」
「だっておれ”達”は獄卒だしね。水咽はまだ一年ぐらいしか経ってないからまだわからないけど長くやるとだんだんと人の事がわからなくなっていくんだよ」

長い時を生きる。それは人の情を保ったままで生きるにはあまりにも長く辛く虚しい。だから獄卒となり不死を得たなら魂の作りが獄卒となる。

少しずつ、少しずつ獄卒と変わっていく魂はそのものの突起した情のみを残し薄まり眠りについてしまう。そして生前の記憶も、薄れて無かったことになっていく。

「・・・私も、そうなるのかな」
「うん。けれど、さみしい事はないんだ。同じおれ達がいるんだから」

水咽の手を掴む。佐疫と同じその手は体温が低く冷たい。それでもそこからかすかに感じられる魂の温かみ。

「そっか。うん。・・・もし私が谷裂みたいに超鬼女になったら許してね」
「それはない」

笑顔で佐疫に即答で返されてしまった水咽。
人混みの中から同じくすんだ深緑の軍服を着た二人が見える。

だるそうな橙色の目と特に何も思っていないかのような青い目が、こちらに気付き寄ってくる。絶叫系に乗ってきたであろう二人は、二人の態度は行く前と対して変わらずだ。感情の変化がない。

面白かったのか怖かったのかさえよくわからなかった。


「・・・斬島、楽しかった?」
「楽しいか楽しくないかと問われれば、特になにも」
「な、るほど・・・・・・田噛は?」
「あ?たいしたことなかったな。めんどくさくなったから帰るぞ」
「お、おう・・・」


水咽からしたら恐怖でしかないわけなのだが。


館に帰り肋角さんにそれを話せば面白そうに「お前もそのうち平気になる」と煙を吐き出したのだった。