「水咽みろよ、田噛のツルハシパクってきたぞ、凄ぇだろ!」 「スゲーですねええええ、私を巻き込まないでくれますかああああ?」 ツルハシを掲げて私の自室にやってきた平腹はいつ見ても楽しそうで殴りたい。 せっかくの休日で部屋でゴロゴロとしていた私の元にやってきた平腹は目の前でツルハシをおろして見せてくる。 どっからどう見ても普通のツルハシでそれでも田噛の武器だ。 頭痛い。ウソ。 別に痛くないけど今すぐ痛くなって布団にくるまって知らないフリをしたい。 パクってきた事に満足げにニヤニヤと笑う。そうしたら今度はツルハシを床に置いてあろうことか私の部屋を見渡し始める。 そういえばこいつ私の部屋にはいるのは初めてか。 というっても誰も招待したこともない。部屋にいれたくないわけじゃないが、ここの館にいる人たち皆男性だから向こうがこっちを気にして入る事がなかったんだろう。 シンプルなものでベッドと机と本棚とタンスしかない。タンスの中はほとんど制服で、本棚には恥ずかしいけど簡単な参考書と漫画だけ。漫画はもちろん恋愛漫画じゃなくて戦闘ものだ。少女漫画?何それ口から砂糖しかでないのはちょっと苦手ですねえ。それより口から血反吐がでるような戦闘漫画が好きです。 「お前の部屋、女らしくねえなあー」 「うるせー」 「喋り方も女らしくねえー」 「それは失礼いたしましたー」 「普通、部屋でふたりっきりになったらドキドキするもんじゃねえの?」 「しねーよ。むしろお前勝手に上がり込んできた不審者だろうが」 「だって木舌から借りた漫画でそうだったしよ。その後確か―――こう」 「ぎゃ!」 平腹の手が伸びてベッドで座っていた私の肩を掴み倒した。 ベッドに倒れる―――わけではなく、ベッドの上に座っていたのではなく端に座っていたので倒されれば当然ベッドの端っこで倒れるわけで。そこでバランスを崩して一緒にベッドから滑り落ちた。 床に後頭部をぶつける。 そして平腹の額が鼻にぶつかる。 「いってー!」 「痛いのはこっちの台詞だっての!!」 「ほ、ベッドじゃねえけどこんな感じにな!」 平腹の顔が近づいてくる。手が腰をさする。こいつ、本当に変態だな。 鼻の穴から血が垂れるのを確認しながら床に転がってるツルハシを掴み切っ先で殴る。 頬にツルハシの先が突き刺さりほほを引き裂く。歯が幾つか抉れ飛び血が顔にこぼれ落ちてくる。 顔半分を破壊された平腹は「いでええ!!」と叫んだ。 「テメー!!マジいてええんだよ!!!!」 平腹がキレてツルハシを引っ張る。それはいとも簡単に私の手から離れてしまいツルハシがこちらへと振り下ろされる。 また任務外で死ぬのかよ。 てかほんとこいつここに何しに来たんだ。頭蓋骨にビイインと響く痛み。暗転。暗い世界できっと私の部屋は血まみれで悲惨な殺人現場となり果ててるんだろうなと溜息を吐いた。 広がる波紋が明るい世界へと導く。 パチリと慣れた闇の世界から目を覚ませば橙色の気だるげな目がある。 視線をうつせばツルハシで何度も平腹を問答無用にブッ刺している。現在進行形で殺人現場になっていましたよ。あそこもそこも全部血まみれで臓物が転がってるんですけどそれ私が片付けるんですかね。 「平然と男いれてんじゃねぇよ」 「いや、田噛も平然と女性の部屋で殺人現場構築しないで」 「うるせえよ犯すぞ」 「平腹より真面目に聞こえるってのが怖い・・・」 眠たそうな顔。けれど微かに口を歪めていて不機嫌だってことはなんとなく多分わかる。 「平腹きても入れんなよ。こいつお前が構うもんだから暇なくても近寄るんだから」 「勝手に入ってくるという現実は・・・」 「鍵でもつけとけ」 「ういっす」 もぞもぞと再生を始めた肉の塊。 田噛はもちろんそれを片つけることなく部屋から出ていってしまったのでとりあえずほうきとちりとりでその肉片だけでも集めて平腹の部屋に。 ドアを開けて肉片を落としておく。 あとは勝手に再生するだろう。 ふと視線がめくられたままのベッドの上に転がってる漫画に向く。 ベッドの絵が微かに見えてもしかしてこれが木舌から借りたという漫画なのかと手にとってみた。表紙にベッドと裸体の男女が書かれていて18歳以上対象、と書かれた文字。 ブッ!と笑いそうになるのをこらえた。おま。これ。エロ本。エロ本! 「いやあ獄卒でもお盛んなんですねえ〜」 余り教えてくれないけど多分何百年と生きてる彼もこういうピンク色のものは好きのようだ。ムラムラしてる高校生かよ。 だが獄卒の感性はやはり現世の高校生とは違うようで、いや平腹の感性だろうか。覚えたての遊びをするようにそれを実践してこようとしたあたり馬鹿だ。 ・・・洒落にならないな。こいつの場合。 「もしかしてベッドの下にエロ本とか隠してたりして〜」 ズボッ!とベッドの下のわずかな隙間に手をいれる。 手探りだけを頼りに動かせば何かにふれる。これか!そう、引き抜けばよくわかんない筒状の何か。なんだこりゃ。 真ん中に穴があいていてゴム素材のようだ。わけわからん。 「つまらん。かーえろ」 次の日にあった平腹は何か言い難そうに何かを発言しようとしていたが口を開閉するだけで何も言わず最後に「ばかやろう!」と暴言だけ吐いて走り去ってしまった。 なんだか青白い顔が少し赤かった気もするが、そんなことよりも今日も一日、雑用係頑張ろうかねとあくびをして指示を仰ぐために肋角さんの所へと向かった―――――― |