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「ここの本って難しいことだらけだ・・・」

休憩室のソファーに寝転がる私は読書の時間だ。皆は任務で外に出ていて誰もいない。掃除も終わった。肋角さんは執務室で書類に追われて頑張っている。私を見張るやつは、誰もいない!

サボリじゃないよサボリじゃ。休憩してるのよ。やることも特にないし運動もとりあえずいつものはこなしたし。うん。サボりじゃない!

読んでいた本は獄卒たちの任務に関するものがまとめられたもの。休憩室だというのに本は堅苦しい。けどほとんどそれ関係で後は佐疫がきっとおいたんだろう花言葉とか花に関係する本。

そういうのもあんま面白くはない。

恋愛小説もそれなりに楽しいけど読むならサスペンスだとかそういものがいい。犯人が誰かなんて考えやしないけどな。

誰もいない休憩室でダラダラとさせる。難しい本に飽きて机の上に放る。紅茶はすでに覚めていてさっきうでをぶつけた時にスプーンを床に落としてしまった。拾うのがめんどくさくて後回しにしてる。これみられたら絶対怒られそう。

けど、今は誰もいない。みんな任務だ。
肋角さんだって来ない。あんな書類の量をしているのだからそうやすやすと来やしないだろう。



とか思っていたら扉があいた。

げっ!とやばい!とぎょっとしてみるとなんと最悪なことに谷裂だった。

彼は目の前の本はほったらかされてスプーンは床に落とされ紅茶は冷めてて猫の背伸びのようにだらーとソファーに寝転がっている私をみて目をカッ!と見開いた。青筋が浮かんでる。

やべえ。やべえよ殺されちゃうよ初めての殺される相手が仲間ですか。そうですか。任務にさえ出てないのに殺されちゃうんですか。

「き・さ・ま・・・ぁぁぁあ!!!!!」
「ぎゃああ鬼が怒ったああああ激おこプンプン丸ー!!!」
「一度死んで詫びろ!!!!」
「生きる!!!!」

扉がバキリ!て壊れた。それを投げてきた。ソファーから転げ落ちて避ける。ガチャン!とティーカップが壊れた視界の端に窓際の花が全部ひっくり返るのが見えた!

佐疫にも殺される!!!!!
ごめんなさい!!


「待て馬鹿女!!!」
「ま、つわけないでしょハゲ!坊主!」

谷裂の足元をすり抜けて廊下に抜け出た。どこからか持ち出したのか谷裂は金棒を担ぎ上げ鋭い目つきで殺す勢いで追いかけてくる。肋角さんの執務室の前を通るのだけは阻止しなくては。それこそ殺されるどころか恐怖という拷問を受ける羽目になる。肋角さんは怒るととても怖いのだ。谷裂も怖いし佐疫も怖いけど肋角さんが一番怖い!

休憩室を飛び出し階段を駆け上がる。一番上まで駆け上がり掃除用具入れのタンスの中に入り込んだ。扉をしめて息をひそめる。小回りはこちらのほうが早いのでここに隠れた事はバレないはず。「水咽おおおおお!!」と叫びながらやってきた谷裂の紫の瞳はぎらりと光っている。

口からは煮えたぎった怒りの水蒸気が出てるように見えたきがする。ひいい。

「あの小娘がっ!!獄卒になったという意識がまるでない!身を鍛える努力もせず仕事を放棄するとは・・・・・・肋角さんの顔に泥を塗っている行為・・・許すまじ!!!」

うぐ。ちょっと正論すぎて胸に突き刺さる。いやだって。うん。獄卒になってまだ一ヶ月と経ってないし、死んで生き返るという体験もしてないしほんと雑用としてしかいないからわからないって。肋角さんの顔に泥を云々はすんごく胸にささった。

バレなきゃいいじゃん?なんて事も思うけどあの人がさらに上の上司に怒られるなんてものは・・・みたくない。

今、真面目に謝れば許してくれるだろうか。殴られるかもしれないけど殺されはしないかもしれない。罪悪感に取っ手を掴んだ。

「しかも女としての意識もひとつもなければ、花を慈しむこともおしとやかにするのもできん!しかも平腹と子供のようなことをいつまでも考えているようだしな。肋角さんが決めたのなら従うが、何故あいつを獄卒などにしたのか・・・いやいや、肋角さんに訳があるんだろうしなければならなかった訳が」
「・・・」

カチン。そこ獄卒と関係なくないですかね。まったく全然関係ないと思うんですけどね。

よし、逃げ切ってやる。谷裂から逃げ切ってギャフンとさせてやる。見下ろして小娘一匹捕まえられなかったのか!って言ってやる。

谷裂の気配が遠くなってきたのを感じでタンスから静かにでる。

上がってきた階段を今度は下っていきほぼ誰もこない資料室へと身をひそめる。あの谷裂もさすがにこんな埃まみれの資料室にはこないだろう。
しめしめ。
なんて。
思ってたら。

目の前に。


ええ。


うそ。


肋角さんがいた。


赤い双眸が私の黒い双眸を捕まえる。

「谷裂が憤慨していたが、なるほど、サボりか」
「あっ・・・その、えっと、・・・はい」

やばい。やばいぞ、水咽。肋角さんは静かに口の片端を上げて微笑んでいるが完全に嵐の前の静けさ。その赤い目の奥でギラギラと私の急所を狙っている刃の光がみえる。パタン!本が閉じられ本棚に戻された。