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貴女は幽霊を信じますか?
なんて言われても正直どうでもいいと答える。だってどうでもいい。幽霊がいたとしてもそいつは人間だ。それで私も人間。それだけだろ。
あ。けど、そうだな。その幽霊に追い掛け回されるのは嫌いだな。




「・・・」


ズッチャズチャと後ろから這いつくばってついてくる。土砂降りの中で傘をさしていたんだけどいつの間にか後ろにつけられていた。一見みるとこの土砂降りの中何処か沼水で転んだのかって汚れ具合の人だけど誰もその人を見もしないどころか踏みつける奴もいる。まあ当然生きてる人じゃないわけですよ。

それが何が原因か、因縁かはしらないけど私についてくるわけだ。これじゃあ家にも帰れない。だからこうしてぶらぶらとあてもなく歩き回ってるわけだ。
どーしようかな。雨だるいなあ。特に気にせずに適当に道を曲がっていく。いつまでもやまない雨に足元はもう膝まで水分を吸って濡れている。靴なんて泥まみれだ。
明日雨やむかな。やまなかったら学校さぼって近くの図書館でだらだらしてよう。

なんて曲がったら道が続いてなかった。
這いつくばって遅いくせに、瞬間移動でもしてんじゃないかって思うくらい気がつくと真後ろで近づいてくる何か。もちろんこの曲がり角で、奥に道が続いていないところでも有効でさっきまで小さく聞こえていた音がすぐ真後ろから聞こえる。

あーあ。

仕方なく背後を振り向く。ずっと無視され続けてなおついてきたんだ。私が”視える”ってことはもう気づいているんだろうな。このまま無視して行ったら見逃してくれるかな、なんて考えたりもしたけどそうじゃなかった場合とっても危ない。

びちゃり。
停まった。

長い髪が濡れてて顔も隠してどんな顔をしているのかわからない。手は真っ青で皮と骨。指先は爪が割れててしかもふやけてて皮がグニグニとしてる。気持ち悪い。
服はボロボロ見た目から女性だって事はわかるけどそれ以外は何もわからない。
ぼそぼそと何かいってるけどここからじゃ何も聞こえない。耳を口に寄せれば聞こえるかもしれないけどそんなことしてたら連れ込まれる。

「・・・・・・めんどー」

傘をたたんだ。大粒の雨が髪に顔に服について濡らしていく。これを視ることができない普通の人がこの場面をみたら何をしてるんだろうって引いてるかもしれない。あいにくこれがいるからなのか誰もいないけれどさ。

綺麗にたたんで帯もつける。
どうするかっていうとさ、傘でも先っちょはとりあえずとんがってるんだよね。棒なんだよね。だから。

「悪いね」

傘の先でそれの顔面をブッ刺した。
顔が見えないから確実ではないけれど、だいたい目の位置にそれを刺してやった。ベコンって崩れた感触。目には刺さってないけどどうやら骨は破壊したようだ。それは動揺したのかビチャビチャとその場で顔を手で覆って暴れた。
こっちを見てないうちに逃げよ。

ぎゃあぎゃあ悲鳴っぽいのをあげてるそれの脇を通って逃げる。
傘の先の金属部分になんか肉片らしきものとウジみたいな虫がひっついてて気持ち悪かったので適当な壁にそれを擦り付けた。


道をもどるけどそこには誰もいない。自転車も自動車もいない。ああいう奴らが現れると大抵こうだ。まともな存在はすべていなくなる。代わりに変なものがいる。
壁に目がついてる。それが私をじっとみてくる。それだけの存在だがその拳大ほどの大きさのある目は気持ちが悪い。一度目を潰してやったことがあるが想像以上にグロテスクでもうやらないって決めた。

「出口なあ・・・」

そんなことよりもこういう現象には出口がない。だから元凶を倒さないと出ることすらできない。しかもこういう現象の中では時間の概念が遅い?らしいのでなんとか出れた時には一週間さまよっていたなんてこともある。ずいぶん前に一ヶ月彷徨っていて父にものすごい心配された。それから御札だとか数珠だとか色々持たされるようになった。


どこまでこの現象が続いてるのかわからない。とりあえず道を戻ってはいるけれどもどうみても無限ループしてますご愁傷様。歩くのめんどくなった。座りたいなあ。座ったら逃げられないよなあ。けど、音がするからわかるし。ああ。もう。

「やーめた」

私は壁に背を預けて座った。