1-15





なにやってるんだろうと思う。バカみたいとも。なんというか本当に子どもだなっておもった。駄々をこねた子ども。よくないってわかってて何もしないと決めたのに父が弱い結界を張ったのをみて”助けよう”と思ってしまった。何もしないと決めたはずだったのに。

父が奥の行き止まりにたどり着きここにいれば安心だ!と私を見ていないその目でいう。私が歩き回っても父は気づかない。

さっきの御札は結界だってわかった。

知識なんて知らないのにわかった。けどその結界はあまりにも弱すぎてあれら獄卒なら簡単に破ってこちらに向かってくるだろう。


父の思いは、その程度でしかないのか。


そう思うと無性に悔しい気がした。

こんなに思っているのにその思いを守る力はとても弱い。私は親指を噛んだ。自分の手なんて噛んだ事なかったから噛む力加減に痛さにしかめた。意外と血がでた。

父が守る守るとぶつぶつつぶやいている。それを一瞥して三昧の札のところに。最初は左。右。それぞれに結界内にいる怪異にその血をこぼしてみた。いつか気持ち悪い変態怪異に私の血肉はオイシイ的な事を言っていたのを思い出したのだ。

怪異がその血を吸収していく。みるみるうちに大きくなった。強くなった。なるほどって納得した。

中央のほうでも同じことをした。
けど、強かったけど、獄卒はさらに上をいった強さだった。最初こそ苦難していた獄卒がじょじょに対応しはじめ最後には見事怪異をやっつけてしまった。馬鹿だな自分。それをみておもった。

こんなのことしても意味なんてなかったのに。



しばらくすると他の獄卒も来て、どいつもこいつも見たことあるやつでしかも怪異も倒されたようだった。

完璧にただの駄々っ子だった。
けどやっとあきらめがついてバカみたいに笑って札を破いた。父はもうあそこから動けないだろう。ここを安心だ、と思ってしまっている。獄卒に捕縛されるまできっと捕縛されても気づかないかもしれない。

谷裂っていう紫の目の獄卒に殴られた。かなり手加減された感じだけど血がでた。苦い。甘い。味は人の血とかわりはしないんだけどな。


「もう邪魔はしない」


そういえば満足してくれたのか先へと行ってしまう。それぞれの獄卒から哀れみ、見下し同情の眼差しをもらう。佐疫とかいっていた水色の獄卒はハンカチをくれてここをうごかないように、といいどうしようもないねと寂しい微笑みをくれた。

本当だ。
どうしようもないし、どうしようもなかったのにね。
あーあ。

もう少しすればこの異界はなくなる。ゆっくりと起き上がって弱い怪異を払って外へと歩き始めた。父の下にはいかない。もう意味はない。どうやっても元には戻せないから。もらったハンカチで口をふいた。


「・・・・・・生きるか」

ここで待っていろという言葉を無視する。大丈夫。こういうのは慣れてる。
私は生きるよ。

まだ生きてるから、生きるしかない。
父はいなくなってしまったけれども、いつもときっとかわらない。


かわらない。




生きよう。
帰ろう。
げんじつに。ガブ。
ガブリ。
ガジガジ。


「・・・・・・あーあ」




緑色の目の獄卒に言われたこと思い出した。



”生者といえど亡者の手助けをしたってなると死後に影響でちゃうよ?”




ほんと、今更だ。

体が落ちた。雨は降っていないけどビチャリって水溜りに落ちる。水たまりは生暖かくてどんどん量が増えていく。視界は赤かった。

うまい。うまい。うまい。頭上からそんな声が聞こえて頭上が暗くなって全部私は全部なくなるんだなって暗くなっていく視界と意識のなかで静かにおもった。

どうしようもないね。





花畑なんて見えない。
暗くなっていく。その中で二つの赤い目がこちらを見下ろしてるのが見えて。

どうしようもないね、と自嘲して笑った。