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「左右にも同じような怪異がいる。そいつらを全部倒したら・・・・・・・・・・結界をといてあげる」




つかさの血によって力をえた怪異は化物となり結界から一歩こちらへと出てくる。向こうからは出入り自由。巨大になりより穢れを身に宿した怪異がその手のような蜘蛛の足のようなそれを獄卒の二人へと伸ばす。
それを避ける二人。いた場所の床は陥没。あんなものに潰されたらたとえ死ぬことがないのだとしてもひとたまりもない。冷や汗をかきながら怪異を睨む。先に走ったのは武器を持った田噛。そのツルハシで額であろうその部分に振り下ろす。

蠢く闇が裂かれる――がそれは複数の蠢く虫のように触手を伸ばし互いに絡み裂かれた部位を修復していく。巨大な闇の一部から手が伸び田噛をつかもうとしてくる。

田噛は舌打ちをしてツルハシでそれを退けると地面に着地した。

「強いね」
「ああ。あの女の血が力を与えてんだ」
「・・・数滴でここまで強くなるなんて」
「それだけその血族が非道を尽くしたってことだ」

怪異が迫る。ひとつの手をよければまた触手のようなものがこちらへ。それらを避けながら攻撃をしかけても早い回復によって対して傷は負わせられない。敵の多数あるうでを切断。重力に従い地面に落ちそれは霧散して消える。しかし切られた断面からまた再生しはじめる。その速度は獄卒以上。

木舌はそのうでらを千切る。素手で相手をするには悪すぎるが、代わりの武器は持ってきていない。最初こそ監視目的できたのだから本格的な戦闘に備えてはないのだ。きちんと備えておけばよかったと内心おもった。

「おい」
「――お、サンキュ」

ツルハシで胴体を切り裂き後方へと戻ってきた田噛が腰からナイフを取り出し投げ渡してくる。小さいものだがないよりかはマシ。

それを受け取ると怪異へと突っ走り足であろうその二つの柱を力任せに何度も切って切断。バランスを失くした怪異がこちらに向かって倒れてくる。

避けて相手が攻撃に転ずる前に田噛と共に手を触手を切り裂きながら、ばらしていく。再生するのならそれが追いつかない速度で切り刻んでいけばいい。
獄卒を舐めない方がいい。

何度も刻み。斬り。再生をはじめる部分も斬り。きり。切り。霧散して消えていく。再生の速度がおちていく。切り刻む。刻む。切る。斬る斬る切る。

珍しく息が少し上がっていた。刻むことだけに集中した二人が落ち着いて立ち止まると、怪異だった破片達は力が尽きたのか霧散して消えていく。

「・・・まず一体目倒したかな」

深呼吸を繰り返し酸素を取り込む。何度と切り刻み倒していく姿をみていた生者であるつかさは最初と変わらず結界の札があるところで立っていた。

口は強く結び悔しそうにその様子をみていた。もっと長くもつと思っていたんだろう。溜息と共に表情が落ち着く。

「生者といえど亡者の手助けをしたってなると死後に影響でちゃうよ?」
「今更じゃないですかね。あーあ」

札の前で座るつかさ。
左右の仲間が同じように強い怪異を倒さなければこの結界を解いてはもらえない。それでも時間はかかったものの怪異を倒すことはできる。

・・・やられることはないだろう。



「なにしてんだか」

ぼやき。

「いつの間にか死んでて吃驚だし、それに気づかないまま生きてた私にも吃驚」

何もかも吃驚。そう呟き自嘲気味に微笑んだ。獄卒は何も言わない。ここで口を挟んでも意味がない。彼女を慰めて何になる。それは彼女をより一層惨めにさせるだけだ。そして生者である以上必要以上に絡むこともしない。
互いのために。

「木舌、田噛」

左側から佐疫と斬島が戻ってきた。多少の傷はあるものの深い傷はない。それも互いに確認の言葉を交わしている間に消えていく。

「君は・・・どうしてここに」

人質であったはずのつかさの存在に気づいた佐疫。「たっだいまああー!」と平腹が返ってくる。

彼も大した怪我はなくむしろピンピンとしていた。右の怪異も左の怪異もあっけなく倒されてしまったそれにつかさはあきらめがつき清々したのか笑い出した。

人質だったはずの生者がそこにいてバカみたいに笑っている。

誰もが彼女に視線を向けた。


つかさの手が札に伸びて――――それを破った。

「ゲームは獄卒さんたちの勝ち。こんなに早く勝敗つくなんて思わなかった、こんなにあっさり終わるならもうちょっと血を吸わせればよかったかな・・・」
「貴様ぁ」
「谷裂!」

何故ここにいるのかはわからないがそれでも話を聞く限りこの結界を張ったのはつかさだと理解した谷裂は怒りを表しながらつかさの胸元をつかみあげた。

佐疫と木舌の静止の声。つかさは鬼の形相をしている谷裂をただ見つめた。バカみたいな自分。それがわかっているからつかさは鼻で笑った。

衝撃。
谷裂がつかさを殴った。

もちろん相手は生者で手加減がされているが地面に尻から殴られ倒れたつかさの口からは血が垂れた。痛みで歪ませながら谷裂から視線ははずさない。

「もう邪魔はしないよ。もう全部終わったんだ」

そう言い血を唾と共に吐き出すつかさ。

言おうとした言葉の返答を先にもらってしまった谷裂。それでもその言葉で満足したのかフンと鼻を鳴らし敗れた結界の奥へと進む。

つかさはそこから動かない。もう、起きる気力もないのかもしれない。亡者である父が捕縛されるところを見たくないのかもしれない。

斬島も木舌も田噛も平腹もそれぞれの彼女に対する今の気持ちを口にすることはなく谷裂に続いて奥へとはいっていく。

佐疫もつかさにハンカチを渡して、「危ないからここにいてね」と申し訳なさそうに微笑んで奥へと消えていった。