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わけわかんないし。なにが。どうして。どうして?

私を抱き上げてる腕はこんなに暖かい。けれどその皮膚は黒くおぞましい感触でゾッとする。あんなに優しく愛してくれた父の顔は同じように黒く醜く目は血走っている。

何度も私の名を呼んで離すまいと必死に掴んでいる。私はこんな姿の存在をみたことがある。昔から。今まで、度々見てきた存在。嘘だって思いたい。

・・・父は死んでた。

いつ死んだのかわからない。変だ。
あれ。変だ。


「おとうさん・・・?」
「ああ、つかさ。つかさつかさ・・・」

言葉にしたくない恐怖。身体から血の気がサーと引いていく。鼓動が早すぎて息が詰まる。走ってないのに呼吸をするのが辛い。

はっ、はっと息を短く吐く。落ち着け、と頭で告げるけどそんなの無理な話だ。いつからだ。いつから。だ。よ。

「お父さん・・・・・・いつから、し、んで・・・たの?」

父に抱きしめられた記憶。父に愛してもらった記憶。時には寂しいとないた思い出。つい、昨日まで会っていた。
けどいつも起きるには早い時間帯で、寝ぼけているときだった。

夢現だった。そこまで考えると私は目が覚めたようにたくさん疑問が浮かんでくる。

きちんと起きた状態で父とあったのはいつ?深夜や夜明けにしか会っていないのはどうして?父の連絡先は?電話はかけたことがなかった。向こうからもらってるだけだった。父はなんの仕事をしているの?食器はどうしてあんなに少なかったの?

茶碗はどうして一人分しかなかったの?


父の物にはどうして埃がかぶっていたの?



全てがオカシイ事に気がついてしまった。


目の前で走っている父は私の疑問なんて耳に入っておらずひたすら逃げていた。私を守らなきゃ。そう言って。
私は今走っている父の目には映っていない。

それがとても悲しいし、寂しい。けれど目に映ってなくてもそれでも必死に守らなきゃ、幸せにしなきゃ、と呟く父がやはり嬉しい。

涙が滲んできた。私の存在を忘れ私を死守しようとする父の肩に手を回して顔をうずめた。黒い肌が気持ち悪い。それでもこれは父であるのだ。

「おとうさん・・・」

ごめんなさい。
こんなになってまで私を愛してくれて。守ろうとしてくれて。

けど、お父さん。私は生きていて、父は死んでる。それはどうやっても変えられない。一緒にはいつまでもいられない。獄卒がいた。頭が混乱して意識が向いていなかったけどあそこには獄卒が二人いた。亡者を取り締まる彼らは父が死んでるってことわかるだろうし、私を守るためにあの獄卒がいたんだ。

きっと彼らはこっちに向かってる。亡者でここまで穢れてしまった父を取締り地獄へと引きずるために。

彼らはとっても強い。今まであった奴らも強かった。だから父はすぐにつかまる。捕まってしまう。仕方ない。父は死んでるんだ。亡者なんだ。
いつまでもここに留まってもどうしようもないんだ。


「ごめんなさい・・・」

お父さん。獄卒さん。
どちら側にも味方できない。

父はここでは生きられない。私が何をしても無理だ。けれどだからといって獄卒の手助けなんてしたくない。今まで愛してくれた父にそんな裏切りはできない。

私は何もしないという事を選択した。

ただ、それでも父と触れ合っているこの時が少しでも長くあればいいとおもった。





私と父は、黒い闇の中へと飲み込まれていく―――――