夜間警備任務報告書
○月☆日(木)
死野

さて今日も俺は仕事ですよっと。
特務課にたどり着いた俺は、俺がいつも警備の為に立っている位置に一人の獄卒が倒れてるのに気付く。体型からしてとりあえず木舌じゃあないな。

「・・・おーい」

近くに寄ってみてみれば涎をたらして寝ている平腹だった。肩をゆすっても置きやしない。まったく何してんだか。風邪ひくぞこれ。
とりあえず着替えに行ってタイムカードきって、誰かに平腹をどうにかしてもらおう。

玄関を開けて中へ。キリカさんやあやこさんはもうとっくのとうに帰ってる。そして夜中の九時なので中は静かだ。10時に消灯だからな。着替えるために借りている個室に入って制服を着る。そこでタイムカードを切って廊下に。
談話室に誰かいないだろうか、とそっちに回る。

「おーい誰かいるかあ?」

けれど今日は誰もいないらしく、明かりもない。食堂も覗くがいない。みんな今日はお疲れなのかな。しょうがない、と執務室のドアをノック。さすがに肋角さんはいるようですぐに入れ、とお言葉を貰う。

まだ仕事が終わってないのか書類を見ている。いつも肋角さんは仕事が長くあっていつ休んでるんだろうかと思う。特務課っていうのは本当に大変なんだなと。

「お疲れ様です、肋角さん」
「死野か。今日は平腹がまだ戻ってきていないな」
「それなら玄関先で寝てましたよ」

俺のその言葉に、まさか平腹がそんな所にいたなんて思わなかったらしく少し目を開いて瞬きを繰り返した後にそうか、と眉間に手を当てていた。

「もう少ししたら私も仕事が終わる。それまで平腹をみててくれないか」
「はい。というより起こした方がいいのでは?」
「いや、お前には荷が重いからそのままでいい」
「わかりました」

平腹を起こすだけの事の何が荷が重いのかわからない。
けれどもきっと何かあるんだろう、と素直にうなずき部屋をでる。そして今日も仕事をこなす為に玄関先にでる。いつもは一人だが、今日は特別に寝ている平腹がいる。

寒そうに思えてしまい、毛布を一枚貰い平腹にかけてある。
なんで平腹はここに寝てるんだろうと不思議に思いながら起こそうと肩を叩いた。そのままでいい、と言われたけど自ら起きて部屋に戻るなら肋角さんも少しは気持ちが楽になるだろうと思って。

「平腹ー、起きろよー夜だけど朝だぞー」
「ぐぉー・・・んぐ、んんん」
「おっ?起きそう?」
「んんんん・・・・・・ぐう」
「だめか」

とても随分深く睡眠にはいっているようで。けど肩を揺らせば反応するあたり、ちょっと乱暴にすれば起きるんじゃないか?

頭でも叩いてみるか?それともケツでも叩くか!
上から下まで見て、叩く場所を考える。けど、ここだ!という場所はみつからなくて、というか特務課の奴なんだからどこ叩かれようがへでもないな。
んじゃあまあとりあえず頭叩くか。

「よし・・・平腹起きろ!」

ちょっと土のついた頭をバッチーン!と叩いてみた。
以外にいい音がしてちょっと強くやり過ぎたかもと唸りはじめた平腹を覗く。さっきよりはっきりした言葉が口から零れる。

「平腹、おきたか?」
「んあああぁ・・・ぁぁぁのやろう・・・」
「ひらはら?」
「寝てんの邪魔すんじゃねーよ!!」
「!?」

突如として起き上がった平腹だけども、鬼の特徴である牙がぐわあと覗いていて今にも噛みつきそうで、というか拳がこっちに向かってきてる事に気付いて慌てて避けようにもその速さを目に追うだけで精いっぱいで俺の身体は動かない。


「・・・っ!」

やばい、俺しんじゃう。
衝撃に怯え目を閉じてしまう俺は、もうやってくるであろう衝撃と痛みをまつ。






「いったろう、お前には荷が重い、とな」




落ち着いた低い声。鼻腔を刺激する煙草の匂い。
恐る恐る目をあければ平腹の強烈な拳を手首を掴み止めている特務課管理長の肋角さんが呆れながら笑っていた。大人の笑み、といえばいいのか、同じ同性の俺でもその笑みにカッコイイ、と思ってしまった。
緊張と恐怖が一気に解けて、尻もち。あー、これ後から恥ずかしいって思うパターンだよなあ。

拳を繰り出した平腹なんか、自分がいま何をしたのか理解してなくて呑気な声で「ふぉ?肋角さん?あっ死野!お前を待ってたんだよー!!」とか騒いで座り込んでしまった俺を片手で難なく立たせた。

「えーっとここにいれたと思ったけど・・・あ、あったあった!ホイ!」
「・・・これは?」
「この間、菓子くれただろー?だからそのお返し!!田噛からもらった!」

未だにドキドキしてる胸を抑えつつ平腹から手渡されたものは金平糖だった。小袋に10粒入った金平糖。その袋には丸獄駄菓子屋の印が印刷してあった。

「死野、ここの好きだろー?」
「お、おおっ・・・ありがとう平腹」

これをくれるためにここで待っていたんだと、思うと嬉しくなるけども、結果的に殺されそうになった俺はちょっと微妙な心情。いや、嬉しいんだけど。嬉しいんだけどね。うん。これのために殺されちゃうのはちょっと・・・。
いや、いやいや俺が悪いんだけどな。肋角さんの言葉を無視したのが原因だしね。

「平腹、寝るのなら自室に戻りなさい」
「もう少し死野と話してから寝る!いいだろ、死野?」
「ん、んん、大丈夫だよ」

まあ、夜間警備で突っ立ってるぐらいだから暇つぶしにはいいだろう。
金平糖もくれたことだしな。

「わかった。では私は先に部屋に戻るとしよう。おやすみ二人とも」
「おやすみなさい肋角さん!!」
「おやすみなさい」

館の中に戻っていく肋角さんを見送って、一時の平腹との会話を楽しむことにする。

もう二度と平腹を起こすことはしない、と胸の中で決意しながら。








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