○月□日(火) | 死野 「あー・・・」 いつものように夜間警備で玄関先にたっている俺はもうすでに帰りたい気分でいた。館に来て特務課の管理長である肋角さんもお休みになる時、誰が帰ってきてないのか、誰が任務にいっているのか、と報告してくれる。 今日は木舌がいないそうだ。そして非番らしい。 そうなるともういつものアレなんだなって察しが付くのだ。アレってナニかって?あれだよ、アレ。 「ふへへへ〜ららいまあ〜〜」 「・・・・・・おかえり」 酒だよ、酒。 街灯の下、ふらふらと千鳥足で帰ってきた獄卒の木舌は顔を真っ赤に染めてネクタイを首に直接締めて帰ってきた。この間は、頭にネクタイ巻いてたな。というかなんでネクタイを持って行くんだろう。制服にネクタイは支給されてないし、私服でネクタイ着用して何の意味があるのか。 近くに寄ってくる木舌からプンプンとにおうアルコールの匂い。へらへらとだらしない笑みで俺に近づいてきてその大きな身体で俺に抱き付いてくる。 臭い。重い。 「死野〜ただいまあ〜」 「あーおかえりおかえり。さっさと自分の部屋戻って寝ちゃえって」 「ん〜〜」 寝ぼけた子供のように首筋に顔を埋めてグリグリと首をふる。身長も木舌の方が高いし体重も重くて寄り掛かられてる俺の腰や足は段々ときつくなってくる。どかしたくてもずっとこの状態で、起きろ、退けよって言っても嫌だと首を振ったまま動かない。前回よりもかなり酔ってるみたいで、どうにもならん。誰か、呼ぼうかな。 「死野〜、いーこいーこしてよー」 「いーこいーこって・・・子供かい」 「やってってば〜・・・」 「はいはい」 倒れない様に支えていた手を動かして木舌の頭を撫でる。七三で分けた髪は剛毛で硬い。めんどくさくてやや乱暴に撫でてやれば満足そうに、んふふ〜と笑いを溢す。 「ほら、撫でてやったんだから部屋に戻りなさい」 「もっとここにいたいなあ〜、死野は昼いないから〜、なかなか夜じゃないと会えないんだもん」 「夜間警備だからな。それに九時から出勤してるからもうちょっと会いたいならもうちょっと早い時間にこいよ」 「ううう・・・」 ぐっと抱きしめる力が強くなった。重みが増して腰が後ろに曲がってきた。 これはやばい。このままだと倒れる。まじで。 「ほらいい加減部屋戻れって。俺も仕事できないし、お前も明日仕事だろう?また佐疫や谷裂に怒られるよ」 「ううっ・・・じゃあ、死野次の休みいつ?」 「俺の?なんで?」 「おれと遊ぼう。そうしたら大人しく寝てあげる」 「・・・」 重たい木舌をプルプルと支えながら次の休みがいつだったか思いだす。休みは一日中寝てたいんだけどな。なんて頭の隅で思いながら、木舌の願いを叶えるかどうかをもんもんと考える。 数秒とどっちをとるか悩んだ結果―――やっぱ寝たい。から。 「休みはだめ」 「死野はおれの事嫌いなんだああ〜・・・!」 「ぐえっくるし!」 骨がミシミシと軋む。じんじんと痛みだしてきて待った待った!と木舌の背中を叩く。 「話きいて!休みの日はダメだけども昼間だったらあいてるからっ!」 「うえ〜〜ん」 「だから昼間遊びに行こう!な?」 「・・・うんいいよ」 ガバリと重さと酒臭さが離れていく。木舌がやっと離れてくれて目の前でにへらーと緩い笑顔を見せている。なんだか嵌められた感が少しあるけれど約束したのは事実だ。俺は約束は守るほうなんだ。 「んふふ〜やった〜死野と一番に遊べる!」 「ああ、うんうん。ほら、おうちかえんなさい」 「はあい」 大男のくせにスキップ踏んで中に入っていく姿にげんなりしつつもやっとやっかいな酔っ払いを追い払えたことに安堵の息をはく。酒の匂いでこっちが酔いそうだよ。まともに仕事できないのは嫌だし。 しばらくして館の中から、木舌の楽しそうな声と谷裂の怒りを含んだ怒号が聞こえたけれど、館内までは警備しないので無視しておいた。 |