どのくらいの時間が経ったか。もう、人の齢以上生きている獄卒である己たちがそれを数えるのはとても億劫だ。 あの頃、感じていた気持ちも時と共に薄れ思い出の一部となる。あの頃がどんなにつらかったのだとしても、虚しかったのだとしても、胸が痛くてどうしようもないくらい酷かったのだとしても。時と共に感情は薄れ、新たな感情に押しつぶされ消える。
だから、今ここにいる己たちは、あの頃の己等からみたら嫌悪されるであろう存在だろう。なんで。どうして。それしかなかったのか、と問われる事だろう。もっと他にいい方法があったんじゃないか、と問われる事だろう。
けれど、今となればそれはやはり過ぎた過去であり思い出。 時は、戻らない。絶対に。
―――――赤いリボンで結わいた黒髪の長い髪を左右に揺らして彼女は屋敷の中を歩き回る。どこかあどけなく歩き何かを探し回る彼女は屋敷を歩いている肋角を見つけるとパアと笑みを浮かべてトテトテと駆け寄る。
「ろっかく」 「――水咽か、どうした?ん?」 「ろっかくいなかった」 「そうか」
傍に近寄って探していた理由を述べた彼女は、肋角に抱擁され彼女もそれに甘える。
「ろっかくあいしてる」 「ああ、俺も愛しているよ」 「あいしてる」
彼女から愛していると言葉を受け取る度に肋角は歪んだ愛が喜んでいるのを自覚する。とても甘い。甘くてどうしようもないくらい甘くてそれを満たしてくれる彼女に、つかさに依存していく。愛されることはこんなにも素晴らしい事だと。つかさは一生己だけを見て、愛すのだと。そう己に告げる度にそれはもう世の中などちっぽけなくらい幸せでたまらなくなる。
あいしてる。すき。すき。 そう馬鹿の一つ覚えみたいに口から零す彼女を抱き上げる。ふふふ、と嬉しそうに笑い首に顔をうずめ甘える姿は猫の様で子供の様。そして愛しい女の様。
「お前はずっと俺のモノだ」 「はい」 「ずっと俺だけを見ていろ」 「ハイ」
「俺だけを覚えていればいい」
もう、忘れることがないように。記憶のすべてを赤で染めてしまえ。 他に何も覚えなくていい。そう、撫でて囁きすべて忘れ知らないままの幼子にただ一つだけの歪んだ色だけを教える。
赤い色だけが彼女の世界であるように―――――と
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