金棒を振る。カナキリの刃がそれを受け止めギギギと金属童子が擦れる音。蹴りを繰り出せば距離をとり跳躍する斬島。その蒼い目は真剣であり己もまた真剣だ。互いに距離をとり相手の隙を伺う。もちろん隙は互いにではしない。それでもほんの少しの隙を探し、己の勝ちを手に入れるために動く。交差する目。

「―――今日の晩御飯はなんだろうな」
「・・・腹が減ったのか」

唐突にそんな事を言いだす斬島に、張り詰めていた空気が解ける。と同時に斬島が腰を低くしこちらに攻めよってくる。今のは戦略的なのか、と考えたが斬島がこちらに襲い掛かる一秒ほどの時間空間にて本当に腹の音が聞こえたのだから本音を口にしただけなんだろう。
金棒で迎え撃つ。先手をとる為に金棒を横に振り、向かい来る斬島の軌道をそらす。刃でそれを受け止めつつ更に腰を低くした斬島。また腰を高くする時間に隙。そのまま刀で弾かれた勢いで金棒を振り下ろす。互いの武器との隙間から互いを視る目がまじわる。

晩御飯、という単語に嗅覚が反応したのか匂いが漂っている事に気付く。斬島はこの匂いに反応したんだな、と考えつつ避ける斬島を目と気配で追う。斬島の目線は時たま、鍛錬所の外――おそらく食堂へと向かっており相当腹をすかしているんだろう。

そんな事を考えていたら俺の腹もグゥと小さく鳴った。
斬島と視線があってしまい集中がそがれていく。互いに手が止まる。

「谷裂、ここまでにしよう」
「・・・ああ」

グゥゥゥゥと俺よりも凄い音を出す斬島の腹。鍛錬は真面目にしなければならないが、こうも気の抜ける音が聞こえるともはや腹が減ってはなんとやらだ。
つづきは食後にするべきだろう。

タオルで汗を拭き、互いに武器をしまう。
食堂にたどり着き中に入れば、オムライスが置かれている。表面が焦げていたり、破けて中の飯が見えていたりといくつか歪なものがあり、それらを作ったであろう彼ら、佐疫と抹本は奥の厨房でまだ作っているのか声が聞こえる。

「オムライス食べたいって言われた時、驚いたなあ。作ってくれるキリカはいないから、調べたりしてオムライス作ったよ。見た目焦げたり卵の部分破けたりでちょっと綺麗じゃなかったけどね」
「へぇ〜、あ、だから今日オムライス?」
「うん。水咽が食べて美味いって言ってくれたんだけど見た目は・・・って言われてね。だから彼女が目を覚ました時に綺麗なの出せるように練習したいんだ」

佐疫の会話は水咽の事で名前を引き金にあの時の、笑う顔を思い出した。決して嬉しくて微笑んでいるわけではない笑顔。むしろ、この世の絶望を飲み込んでしまったかのような希望に縋るのを諦めた闇色の目。歪に弧を描く口。

あの時、あの笑みをみて、俺はダメだ、と口に出してしまいそうだったのだ。
罪を犯した存在である相手だというのにそう思ってしまった事に驚き、嫌悪もなかった。ただ、”自由”という存在に会うべく立ち続けた水咽がそこで折れてしまう事を止めたかった。俺へと宣言した事を成し遂げてほしかったのだ。まっすぐに。

「・・・」

破けて中身の見えるオムライスに視線を落とす。

歪なオムライス。

歪んで壊れた水咽が目を覚ました時どうなるのかはわからない。
だが、直ることは決して、ないだろう。それはきっともうどうしようもない事なのだから。

・・・ただ。
目を覚ましても、あのまっすぐ強く見つめる瞳が存在してくれれば良いと。
そう少し思い、溜息を吐いて席についた。