深夜に仕事を終えた俺は館に帰えった。灯のともっている食堂を覗いた。中で木舌が一人酒を飲んでる姿を見て眉間に皺を寄せつつ階段を上る。最近の木舌はよくよく夜中に一人酒をするようになった。何かを考えながら。原因は肋角さんだ。

階段を上り、自分の部屋とは違う方向の道を歩く。
通路の一番奥にある扉にたどり着くと静かにドアノブを掴み捻る。しかし鍵を付けられているのか開かない。こういう深夜に誰かが勝手に入らないようにしてるらしい。だけどもそんな考えはわかっている。
懐から針金を取り出す。鍵穴に挿し、感触を確かめていけばカチリと施錠が開く音。周囲をそっと見渡してまたドアノブをひねる。ゆっくりとドアが開き、中に入る。

ベッドに覚ますことなく寝るのは水咽という女。自由と呼んだ鏡の怪と共に生きるために魂をたべ長い寿命を手に入れた女。運が悪く――いや何かの因果によって肋角さんに目を付けられ、軟禁された女。そして、肋角さんの思惑通りに進んだ女は肋角さんの望む姿になろうと蛹のように静かに身体を魂を作り変えるために眠りについている。

「・・・あんときにげりゃあよかったのにな」

肋角さんが、この館に置くと決めた時から何かあるとはわかっていたし、それからしばらくして木舌が地下牢獄へと向かう回数が増えていたのも知っていた。あんな辛気臭い所、仕事以外で行きゃあしねえからな。お前にも同情するが、木舌にも同情する。肋角さんの片棒を担がされたんだからな。

だからあの時、逃げてくれたらなんて思ったわけだ。
こちらとして平腹が言うようにどっちだってかまわない。構わないがこういう蝶の身体を少しずつむしっていくようなやり方は気に入らない。欲しいのならばすべてを受け入れなければ。美しい部分だけを手元に残す、なんてやり方など、それに対して”何も認めてない”と同じだ。

あの時、逃げていたらもしかしたら鏡の怪に会う時があったかもしれない。
あるいは肋角さんが執着を解いていたかもしれない。可能性は低いが、それでもあのまま飼い殺されるよりかは、と。

結局、飼い殺しにされたが。


「もう終わったことだな」

もう寝よう。
静かに寝息を立てる女を一瞥し部屋をでた。