まず一言。臭い。 暗い中を歩いていると向こうから音が聞こえてきた。たくさんの息遣いに時々ゾワァってする”身体が壊れる”音。肋角さんが負けるってことはないけどじゃあ肋角さんは何をしているのかって考えると何かと戦ってるってのはわかる。 そこからさらに歩くとどんどん血なまぐさい匂いが漂ってきて肉片をぐにゅりって踏みつけて悲鳴をあげた。 「ひいいいぃぃ」 「これは、人の肉片だね」 足元に散らばる肉片たちを見る仲間達。その肉片の中にはかろうじて形が残っていて指の先部分とかも転がっている。内臓らしきものも。人の肉片、と断言した佐疫。 「イドに器を奪われてしまった者たちかもしれない」 「ひいい、え、じゃあ、俺も器奪われてたらミンチにされてた?されてた??」 「あはは・・・」 その俺の言葉に目線をそらして苦笑する佐疫に首をひねる。なんだなんだ?と思っていると斬島が「未遂で終わったがな」とボソリと発言して佐疫が斬島!と窘める。 え。 マジっすか先輩?? 「違うんだよ、違うの!ミンチにはしてないよ!ただちょっと喉を・・・」 「あー、どうりで喉が妙にイガイガするわけだー」 「う・・・」 とても慌てる佐疫って新鮮だなー、おいー。 にやにやしつつもまた肉片を踏みつけてしまい悲鳴。あれだよ、ゴキブリを踏みつけてしまったようなそんなぞわっと感。 そこからまた歩けば向こうにうっすらと立ち尽くす人影が見えてくる。 肋角さんだった。 肋角さんは血で染まり足元に肉片の山々ができている中心で立っていた。手の平に肉塊を持っている。心臓のようにドクドクと動いてる。瞼のない三つの寄せ集まった目がギョロリと気持ち悪く動いてこっちをみた。こっちみんな。 目の動きに反応した肋角さんの鋭さの増した赤い目がこちらを向く。 ここまで鋭い目線を見せる肋角さんをみるのは初めてでその目を見た時に、しょんべんちびりそうに。大丈夫、今回はちびってない、ちびりそうになっただけ。 「――兆野か?」 肋角さんが俺のなまえを呼んだ瞬間、大量の汗が!んでお前らはどうして俺から距離をとりはじめるんだよおおお!!!! 真っ青になりだらだらと滲む汗を指の腹でぬぐい背を伸ばした。 誠意をもって土下座と行くべきだな!だろ!!頭の中のいつかの平腹が「詰んだな!!!」って笑ってる幻聴が聞こえた。くそ平腹め。 「っっは、はい!ここ、この度は多大なご迷惑をぉおかけしまして・・・!」 「そうだな。本来、生者を手に駆けるのはご法度ものだが・・・生者を大勢手にかけた。しかも任務外で、だ。どれだけの迷惑をかけたと思っている」 「・・・!・・・!!!」 激おこプンプンレベルじゃない。最終レベルの激オコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームの域じゃん!?俺、俺獄卒クビ!?クビになちゃうの?!輪廻に戻されちゃう??!佐疫達とさよなら!? いやいやいやむしろ罪を償う羽目に!?地獄行きいいい!!!!? 思考がはじけた。 「ごごごごごごごめんなざいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」 伸ばしていた背筋。走って肋角さんの足元に勢いでしゃがみ滑りこんで肉片に頭から突っ込みながらも手の平と頭を地面につけて肋角さんの足元で土下座をした。 「ごめんなさいごめんなさい肋角さんん!!!なんでもっ、なんでもするから、するからクビだけはご勘弁くださいい!!!!!!」 そこから痛い沈黙が続いて、兆野、とまた肋角さんが俺を呼んだ。 慌てて顔をあげると真上から見下ろす上司のへ文字だった口元が少しつり上がる。 「なんでも、と言ったな?」 あ。今、頭の中でん?今なんで持って言った?なんて横から流れてくるコメントがでてきた。パソコンで見た奴だ。うわあ。うわあああ。 「なんでもと言ったな兆野」 「あっ・・・・・・ハイ!」 今更取り消しなんてできるわけもなく顔を引きつらせて頷く。 「ならば今回の騒動に関する書類を作成および一か月の自室での謹慎処分。さらに今月の給金はなしをする」 「!!!??ちょ、まっ、給金は、給金だけは・・・!!」 お菓子買えない!どこにも出かけられない!!!遊び行けない!!!! 「なに、獄卒だ一か月ぐらいでは死にはしないし食事も死なない程度に部屋に持ってこさせるさ。・・・異論はないな?」 「ぐう・・・・・・はい・・・」 「獄卒をクビにされないだけありがたいと思え」 「ぅ・・・はい!」 「よし。帰るぞ」 グジョリ。手でつかんでいた肉塊を握りつぶした。三つの目玉が飛び出して神経だけつながった状態で宙にぶらぶらと。・・・木舌がたまにあんな風になるよな。目玉だけプラーンって。 「―――ぅ、ゎ、」 そんな事考えたら足元が不安定に。 クラリと揺れた足元に驚いているのは俺だけじゃなくてみんな体勢を崩すまいと手を広げバランスをとったりしてて俺も同じようにバランスをとってたけど崩れてやべ!と思った刹那にはそれが嘘のように、かあさんの病室で突っ立ってた。 足元も安定してて、自分もまっすぐ立ってて、それにおお、と声をもらしてしまう。 ベッドには息をひきとったかあさんが静かに眠っていてこの精神病院に生者の気配はひとつとしてなかった。 静寂を裂く肋角さんのブーツの高い音。声。 煙管であの世への道を作った肋角さんは「行くぞ」と俺達に一言だけ発し、道の中に身を投じ、俺やみんなも同じように潜っていった。 ―――くぐった先に現れたのは、もう見慣れ馴染んだ俺が勤め住んでる館。 玄関先に災藤さんが帰りを待っていてくれて優雅に微笑んでくれた。 「みんな、お帰り。怪我はない?兆野は大丈夫?」 こんな俺を心配してくれるその優しさ微笑みプライスレス!!はい!って災藤さんの心配の言葉に胸打たれて近づいた災藤さんは俺に微笑みを向けてくれて、ポンと肩に手をおいた。アレオカシイナ。ちょっとっていうかとてもギリギリと痛むなあー。 「それは良かった。兆野、落ち着いたら後で執務室に来るように」 「ぜったい?」 「そう、絶対。こなかったらどうなるか、わかるよね?」 「ハイ」 一か月後生きてるかなー・・・へへへ・・・。 |