全員集合!






「おらおらおら―――!!!!」
「くっそだりい!」

鎖を放り近寄ってくる澱んだ魂を蹴散らす。
平腹を見ると同じようにスコップで殴り倒しながら走っている。あまりの量の多さに兆野の母親の容体なんて構ってられない。丁寧に運んでる暇さえねえ。とりあえず平腹に持たせたのは失敗だったかもしれねえ。ガクガクと揺さぶられていてあの老体じゃあかなり痛いだろうな。ざまあみろ。

「平腹、このままつっきるぞ」
「おー!あ!そいやチビ兆野は!?」
「あー?あー、大丈夫だろう。――ォラッ!」

横から飛びかかってきた影をツルハシで切り裂く。
兆野の姿はなくなってしまったがあれは記憶だ。きっとそこの母親が離すまいと握っているぬいぐるみの中にいるだろう。

あの檻は、兆野の母親をイドから守るための物だった。
そして縛りつけている物でもあったと考える。
誰が何のために。俺は周囲に目を配りながら頭を回転させる。

先程あった出来事を整理していく。


「・・・」






―――俺達は、兆野の母親がいた檻を破壊した。


小さい兆野はそれに喜び母親の元に駆け寄る。母親の様子をみて微笑んだら、俺達の所に戻ってきてここからおかあさんを連れ出してほしい、と頼んできた。

言われなくともそのつもりでいたが、子供らしかぬ雰囲気にたじろぎながらも母親に近づけば、母親の両手がぬいぐるみの一部、左足をぎゅっと握りしめていた。
触れれば手先からピリッと静電気の様なものが流れ―――頭の中に、誰かの言葉が流れる。



”ごめんなさい”



兆野ではない声は女のものですぐに目の前の母親の声だと理解する。
何に謝罪しているのかなんて考えるわけもなくわかる。胸倉を掴んで殴りたいが衰弱してる奴にそれをするほど馬鹿じゃない。

「おかあさんはわるくないよ」
わるいのはぼく。

そう眠っている母へと囁く兆野は、やはり子供らしかぬ存在だ。母親の気持ちが読めているのか、おかあさんはがんばってるんだもん、おかあさんはさみしいから一緒にいてあげるだのとやはり子供とは思えない言葉を笑顔を絶やさず口にしていく。
それらの動作が慈愛に満ちていて、そしてその裏には悲しさも見える。

親の為に必死になって何もかも我慢して親を満足させるために生きなければならない。例え精神的にどうにかなって暴言を吐かれても暴力を振るわれても子供の兆野はそれらを”受け止めれば”愛してもらえる、捨てられない、と信じ続けすべてをその小さい身体で受けてきたんだろう。それは両方にとって悪影響しか与えず、先に母親が壊れた。そして、そのまま依存し続けていた親は子を殺し、己は心を殺した。

反吐が出るな。

「お前、ほんとうっぜーな」

親をあやす兆野の小さい頭をガシリとつかんだ。指先に力を込めてぎりぎりと締めてやる。反応はなかった。そうだろうな、こいつは思いの結晶で、本体じゃない。本体が復活したら殴ってやる。


舌打ちをかまし、近づいてくる気配にもう一度舌打ちする。
暇そうにふらふらしながら母親をみていた平腹を睨んで顎で指示をだす。

「平腹、このババアかつげ」
「おー!」
「行くぞ」

平腹が担いだのを確認し檻の外にでる。
小さい兆野が「いっしょにいこう」と母に告げ姿を消してしまった。思いがそのぬいぐるみに戻ったんだ。それと同時に役目を終えた檻は同じように消えてしまい、そこに待ってましたとばかりに気配が形となって現れ――――今現在にいたる。



「うっひょー、たくさんいんなあ!」

どのぐらい倒したか。いいや、倒してはいないこいつらは影のようなもんでここでなぎ倒してもただ影が消えるだけでまた新たに現れる。こいつらはイドが作り出した幻影のようなものだ。本体を、イドの本体を倒さなきゃ、こいつらは消えないし、俺達もこのイドの中からでることはできない。

「最初の地点にもどりゃあ、誰かしら戻ってんだろ」

俺は疲れた。めんどくせえ。こんだけ長くいたんだ誰かしら戻ってんだろう。そいつらに手伝ってもらう。

歩いてきた道のりを一気に走り抜ける。一寸先は闇だが、段々と視界の先にベッドの輪郭が見えてきて最初の地点まであと少しという所。残していた余力を一気にここでだし速度をあげる。


平腹が先に飛び出した。

「――ひゃほーい!」



「平腹?!」
「わっ!」


続いて抜けると、谷裂と木舌が驚いた顔でこっちを見ていた。

見知らぬ老婆を抱いている事に目をぱちくりとさせていたが、この老婆が誰かなのかを悟った木舌は「なるほど」頷く。

そして俺達の背後からやってきた奴らを見て今度は苦笑する。

「余計なものを連れてきてからに・・・!」

谷裂が吼える勢いで金棒を担ぎ飛び出す。

「田噛、ぬいぐるみ見つかったかい?」
「ああ。あのババアが持ってる」
「こら、そういう風に言わない」
「ふん」

木舌に差し出された両手を受け取る。胴体を持っているのは佐疫だ。そして斬島とペアを組んでるからあいつらが戻ってくるまでここで応戦することになるな。

「平腹、その生者ベッドにねかしとけ」
「へーい」
「乱暴にしちゃだめだよ平腹」
「おう!」

平腹が乱暴に置かない事を確かめて木舌は背伸びをして谷裂き続き飛び込む。前線はあいつらにやらせときゃあいいさ。俺はベッド近くに行きその二人の戦いを眺める。

「田噛オレもいってくるな!」
「勝手にしろ」

影自体は弱いからな。


両手と左足がそろった。

後は斬島と佐疫が持ち帰ってくるのを待つだけ。

そこから記憶であるぬいぐるみを完成させ、兆野の身体を見つけて、肋角さんがイドの核を破壊すれば終いだ。というか兆野の身体を見つけるのが大変かもしれねえ。

空っぽの器にすでに入られていたら俺達には見つからないようにするだろうし、むしろ出てくることすらしないだろうな。そうなったら新たな餌を用意するしかない、が。餌になりそうなやつはこのババアしかいないな。俺としては全然かまわないが、兆野は怒るんだろうな。俺は兆野の方が大事だから怒られるとわかってても餌にするけどな。


「田噛!」
「待たせた!」

三人も前線に居ればこっちは暇だ。
ベッドに座り込んで脚を組んでると背後から名を呼ばれた。そのまま後ろに体重をかけて倒れてから見れば佐疫と斬島がやってきた。しかも運のいいことに兆野の器もある。
勢いをバネにしておきあがる。



「たく兆野は運が悪いんだか良いんだか」

さて馬鹿を起こすか。