「ここが核か」 暗い暗い底のような冷たい腸の内。冷たく寂しく悲しい闇は求めていたものが何かわからない。それでもその一人でいたくない寂しさ悲しさを抱えて、庇護を求め、愛を求めこうして運悪くたどり着いたのは、兆野の器。 こいつらからしたらさぞ美味しそうに見えるだろう。甘美な香り。味。そして熟成された獄卒と違い100年と生きていないその精神は魂は脆い。人の情が残るその魂は、そして兆野の記憶に残る寂しさ悲しさという共通感情を嗅ぎつけてきたイドの集合体は愚かにも”どこに所属”している獄卒なのかを考える事なく否考える思考さえなく目の前のおいしそうなものに食いついた。 それが己等の破滅を呼ぶとも知らずに。 「・・・さすがに核を破壊して終いにはできんか」 ぺたりぺたりと素足で歩く複数の音。闇影から現れた人影にフンを不愉快に鼻を鳴らす。 痩せ細った身体をした者。身体に包帯を巻いている者。生気のない虚ろな目がどこかを見ている。数十人さらにそこから増えていく”人間だった者”は肋角の正面に納まる核を守ち立ちふさがる。 「イドに呑まれた患者・・・魂はすでに融合しているな」 その器には魂はすでになく、イドという化け物の住処となっている。イドは己の身の危機を感じその入れ物を利用しているのだ。 人間の器を破壊するのは簡単だろう。だが、魂はなくともその身体の中にはイドが住み着いている。魂と呼ぶにはひどく歪み醜く汚れたものがそこにある。 生きてる、とは言えないがそれでも”いきている” それらを退かせるということは、器を動かせないほどに破壊しなければならない。 すでに正常な魂がなくともそうするということは小さくも輪廻の流れにそして獄卒としての法に引っかかる。 ある程度融通の利く特務課だとしても十人以上の人間を”殺す”事は良くない。 ましては任務でもない事で。 終わった先の事後処理、そして書類作成をしなければならない事を思い浮かべると頭が痛くなる。 「フン・・・事後処理が面倒だ」 力なく歩み、先を拒む人が肋角に手を伸ばす。腕を掴み行かせまいと群がる。 肋角はそれらを無感情に見下ろし―――掴んだ腕を掴み、へし折った。 「あの閻魔に何かを言われるのは嫌で仕方ないが、このままでは部下を失うからな。未熟だがそれでも俺が手元に置く事に決めた者だ」 そのまま安易に腕を捻じりもぎ取る。鮮血が跳ね肋角の褐色の肌についた。肋角はそれを拭い拳を握り群れへと振りかざす。朽ちた枝を叩き折る様にく文字に曲げた身体が数体吹っ飛び力なく地面に転がる。 抑えられていた己の身を解放し、背後の群れへと後ろ蹴りを叩きこむ。 こちらも同じように身体を曲げ勢いのままに吹っ飛び転がった。 「兆野の記憶と身体を取り戻すまでは生かしてやる。それまでどうにもならない現状を無様にあがけ」 転がっていた器がゆっくりと起き上がった。涎を、血を垂らし起き上がったにんげんは、手足が折れても起き上がり傀儡のごとく動く者たちはもはや人間ではない。人間に遠慮する必要も、同情する必要もない。 再び群がり始める人形たちをその冷たく燃える赤い目で見まわしもう一度、肋角は拳を振るう。 「――――許されざる者には罰を」 |