どうしても温泉つかりたいらしい





「胃上くんがなんか慌てて森のほうに行ったから・・・どうかしたの?」
「温泉を掘ろうとしたんだが・・・難しいそうだ」
「え?うーん・・・、この辺は・・・出るのかな」

出ないよ。出てたら硫黄やらなんやらがあるってことだろ。それが屋敷の裏にあるってあぶねーし。つうかここ地獄だし。ん?地獄に温泉源なんてあんの?あるのってマグマ源とかじゃなくて??
あ、けど温泉街があるから、まあ、あるのか?

「なあ!なあなあ!こっちに井戸あんだけど!!」

いつの間にか姿を消してた平腹が新たに楽しいことを見つけたみたいで騒ぎ出す。こっち!と走る平腹の後を追いかけると確かに井戸がそこにポツリとあった。見た感じ使われてる感じしなくて、なんか這い上がってくんじゃねえのってくらいの古い井戸。

貞子くんじゃね?
おお、なんか白い布?が出てきたぞ。

「なんだ?井戸から白い布?」
「もしかして狂骨が住んで・・・」

「ふぉ?!巻き付くなって、ぬあああー!?」

白い布が平腹に巻き付いた途端、ものすごい勢いで平腹は引っ張られあっという間に井戸の穴に落ちる。咄嗟に反応した斬島が平腹の腕をつかむが引っ張る力の方が強くで切島も穴に落ちてしまう。
次に反応した佐疫が斬島を掴む。が、それでもやはり勢いに勝てず井戸に落ちそうになってる。なんとか落ちはしないが上半身が井戸の中で、もはや落ちるのも時間の問題だ。

「佐疫!」
「佐疫さん!!」

俺と胃上がそんな佐疫を支えるけど、見習いの力なんてたかがしれてるし、俺も力が強い方じゃなくて引っ張り上げようと力を入れても佐疫が少しだけ楽になるぐらいで持ち上げられない。
やっと追いついた田噛がこの現状に「何してんだ?」と呑気にかえす。

こんにゃろ。

「あ、田噛お願い!引っ張り上げてほしいんだ!」
「はやくしろー!!腕もげるうう!!」
「・・・あー」

ケタケタと井戸の底から馬鹿にするような笑い声。平腹はそれにキレて叫ぶ。斬島耳いてーだろうな。

「平腹と、斬島がぶら下がって・・・あとなんかいるな」
「うん、俺達だけじゃ難しくて」
「そこに俺が加わってどうにかなると思うか?」

・・・三人で引っ張っても負けてる状況で、同じく力タイプじゃない田噛が加わっても確かに難しい。いやまあ冷静に考えるとそうなんだけどさ、ならはよ手をうってくれよ。

難しいねという佐疫の返答に、急ぐ様子もなく「ちょっとまってろよ」と踵を返していってしまう。応援を呼んできてくれるんだろうけど、急げよ。おい。こら。歩いてんじゃねえぞ。

「・・・仕方ないですよ、幸運にも三人で引っ張ってるのですからすぐには落ちる事ないと思います」
「・・・胃上、お前良い奴になったな」
「あなたがバカなだけです」
「辛苦」
「あはは・・・!」

「佐疫!」
「佐疫さん!」

突然力が強くなった。佐疫を掴んでいた手がそれに負けて離してしまう。すると引きずられるように佐疫も井戸の中に落ちてしまい慌てて足を掴む。引っ張られる強さに俺も胃上も上半身落ちそうになる。手が、腕が震えて足もズルズルと井戸の方に引きずられる。
やべーよ、これやべー!一分もたねえよ!!

「胃上ぇ!危なくなったら手離せよ!いいな!?」
「何でですか!?そしたら兆野さん落ちますよ!!」
「お前になんかあったら監督不届きで怒られる!!」
「知りませんよ!それよりも今大事な事あるでしょう!」

あー、もう無理!無理無理!!



「おーい!佐疫いるかいー?」

「返事をしろ!今度は何をした!」


あああああああああ!!!
天の助けえええええええ!!!!

「ここー!!!ここにいるー!!!まだ生きてる!!!!!!」

「あれ兆野?に胃上くんもいる。あれ?佐疫は?」
「木舌さん!佐疫さん達、井戸の中から引っ張られて・・・!私達ももう・・・!」

もう無理。
胃上の手が離れた。布が滑ったみたいで剥がれてしまった胃上は後ろに尻もちをついて倒れる。引っ張る力が弱くなった俺はそのままズサー!と引っ張られ井戸に落ちそうになる。

「おっと」
「ったく!」

「木舌あ!谷裂い!」

のを引きとどめた木舌と谷裂。
井戸の中で平腹が噛むんじゃねえよ!と暴れそうになっていて、斬島が声をかけて制止させてる。木舌が右腕を掴み、谷裂が左腕を掴んだ。

「持ち上げるよー」
「千切れるなよ」

「う、うっす、タブンダイジョウブ」

グイと己の腕を引っ張られる。と、これが力量の差か・・・と思ってしまうほどの力が加わりぶら下がった三人分の重量と奥で引っ張る奴の力をものともしない腕力で引き上げていくふたり。うわ、マジでこの二人力すげーな。袖の上から筋肉が盛り上がってんぞ。おお。

「よいしょ」
「ふん!」
「わ」


さつまいものように、じゃがいものように芋づる式で引っ張られ飛び出した俺達は、地面に転がり落ちた。見たところ怪我もなくて、一気に気が抜けて脱力。


「あー、なんか疲れたー」
「温泉にでも入りに行くか・・・」


お前ら元気だよな。

そんな事言い始めた斬島と平腹の二人はとっとと歩いて行ってしまうし、つうかこの井戸どうにかしたほうがいいんじゃねえの?って訴えようとした頃にはみんなそれぞれ言葉を残して散っていた。

残ってたのは常識のある胃上と、やさしい佐疫のみ。

「・・・なんつーか、やっぱ、自由奔放だよな。田噛は戻ってこなかったし」
「ま、まあ、あははは」
「また違う一面見れました。というか兆野さんはいつまで転がってるつもりですか?」


あははは。

はは。


「腰抜けたんで起き上がれません。助けてください」



今日も平和ですねー。