マジ・・・?






俺褒められた!
超うれしい!


なんて思って数秒、なんでこんなにうれしいんだろうと落ち込んだ。

だって俺、50歳よ?おっちゃんよ?それが仕事がうまくできて褒められてきゃほーい!って。

複雑。


仕事が慣れてきて、ここでのやり方も慣れてきた俺は、頼まれた情報整理の仕事をそつなくこなし、提出した。
元々情報課だったこともあり、見やすい纏め方に肋角さんからお褒めの言葉をいただいた。50歳ほどだけど、肋角さんや佐疫たちからみたらきっと俺は子供なんだろう。

いや、死後50年ここにいるってだけでたぶんまだ子供なんだろうなとは思う。


そんな俺は休暇中で菓子を買うために外出している。

最近、平腹が俺の部屋にあるお菓子を食べにやってくるもんで減りがはやい。しかも全然悪いことしてるって気がないらしく平然と食べる喰うのでくっそ!

ただ、やっぱり給金はこちらの方が全然いい。

だからこうしてお菓子を大量購入できるし、平腹に対しても腹を立てるだけで収まっているんだ。



「お」


人ごみの中を歩いていると見知った人たちが正面から歩いてくる。向こうも俺に気付き気だるげな笑みを浮かべた。

「久しぶりだね」
「よお、元上司」

情報課の上司だった奴。そして元同僚たちが勢ぞろいだった。どこに行くのかと尋ねればこれから酒を飲みに行くのだという。昼間っからこいつら。本当に暇だな。

「お前の特務課忙しいんだろ?」
「まあ。毎日ひいひい言ってるよ。つうか俺のお菓子あさんな」
「いいじゃないか、金の羽振りいいんだろ?」
「・・・まあ、」
「あ、そうだ、新しい奴はいったんだ」

人の袋の中のお菓子をあさりいくつかを持っていく元上司。しかも元同僚たちまでそれをやろうとしているのだから袋を離してとられないように威嚇する。けらけらと笑う元同僚。

「おまえの抜けた席にはいってきた奴。こいつ頭良い癖に遊んでばっかでね。まあ、」

元上司がそこで言葉を濁して苦笑した。その先に言いたい言葉は嫌でもわかって懸念していたことが現実になっていて、複雑な気持ちになりながら新人をみる。

見た目は普通で、大人しめな印象がある。髪なんて長さ揃えていて現世の中学生に一人はいそうな奴だ。声も出さずに頭だけを少し垂れた。


「んじゃあ、おれら行くから。仕事がんばれよー」

「おー」




あそこの店いきましょうよ。ここは。あれは。そう楽しそうに歩いていく元仲間達を見届けてまた人ごみを歩き出した。お菓子がだいぶ減っちまった。また買いに行こう。


少し歩いて、足がとまった。

周りの人が邪魔そうに俺を睨みつつ歩き去っていく。それでも足が止まって動かなくて視線がいつの間にか下を向いていた。


「そこにいると邪魔になるよ?」

「―――・・・お前」


肩を叩かれた。自分が足元見てることに気付いてハッと顔を上げたら目の前に緑色の瞳の、特務課の先輩がいた。俺に酒かってきて、とパシってくる奴で、柔和な目と口元で俺を見下ろしていた。軍服を着ていて、少し血の匂いがする。きっと仕事帰りだったのかもしれない。

「木舌っていうんだ。兆野、飲みに行こう!」
「え、あ?」
「ほら、いこいこ」

突然の酒飲みに行こう発言に、呆けた。ぐいぐいと引っ張られて連れられてきた酒場。周りの客の中に元同僚たちがいないのを確認して木舌について席にすわった。木舌はここの常連みたいで従業員に「いつものちょうだい!」と頼んでいた。
俺をみた。

「兆野は何飲むの?」
「俺・・・、お酒飲んだことない」
「ええー?!飲んだことないの!?こんなおいしいものを飲んだことないって・・・!兆野!きみ人生損してるよ!」
「・・・・・・いや、だって、お酒って酔っぱらうん、だろ?」
「ううん!そんなことない!そんなことないから飲もう!」

うそだろバレバレの嘘つくなよ!
周りで酒飲んでる奴ら顔真っ赤にして酔っぱらってんぞ。ヘロヘロウヘウヘしてんぞ!木舌を睨む。それでもそいつはへらっとしら顔を崩さず勝手に酒を注文しやがった。

「大丈夫大丈夫、甘いの注文したから兆野にも飲める飲める!」
「・・・はぁ」

やってきた酒を渡される。ミルクのお酒で、底に茶色の液体がある。木舌がそれを箸で混ぜた。ミルクの白と底にあった茶が混ざり薄茶の飲み物になった。

「カルアミルクって言ってね、コーヒーリキュールっていうお酒にミルクを混ぜたお酒。アルコールの味があまりしないし甘いから、お菓子好きの兆野にはちょうどいいと思うよ。ほら」

飲んで飲んで。そう、進めてくる木舌はもうビールを一杯飲み干していた。二杯めが運ばれてくる。それを横目で見ながら目の前のカルアミルクを見る。匂いを嗅ぐ。よくわかんね。とりあえず、そう、ちょっとだけ一口だけ飲めばいい。口をつけた。


甘かった。

「――うま」

「でしょう?今日、おごってあげるからどんどん飲んじゃってよー」
「おごり、だと?後で請求す、すんなよ?」
「あっはは!しないしない、お兄さんそんなケチじゃないよ」
「本当だな?うそついたら佐疫に蜂の巣にしてもらうからなっ」
「リアルにやられたことあるから怖いんだけどそれ!?」

カルアミルクを飲み干してまた同じのを注文した。
ついでに食べ物でお菓子系をたくさん。隣で本当にお菓子すいだねえと笑っている木舌の、お菓子に伸びてくる手。

俺のお菓子喰われてることにちょっとムカっとしたけどこいつのおごりだし我慢。


「兆野の前の職場ってどんなとこだったの?」
「情報管理が主だった。それにあっても役に立つかどうかわかんねえ情報を扱ってたから仕事らしい仕事はたまにしかなかったからすげー暇な所。出勤してもみんなだらだらしてるだけだったぞ。俺もお菓子喰って椅子に腰かけてぐーたらしてたし」
「うへえ、そんな部署あるんだ・・・。いいなあ」
「特務課すんげー忙しいもんな」

木舌の前の机に空になったビールが四本。けれど五本目がやってきた。顔は少し赤くなっているけれども全然酔っ払いのようにふらふらしてない。
俺もあんまり酔ってる感覚が感じられなくて三杯目のカルアミルクを飲む。やっぱ甘くておいしい。

「けど、最近特務課で仕事前よりうまくいくようになって、楽しい」
「そうなの?だって忙しいでしょ?前のところより」
「ん、そーなんだけどさ。暇すぎてたぶん頭腐ってたんだと思うんだ。それで、だからここにきて頭と体バリバリ使って、なんか、佐疫にありがとうとか仕事でも言われる事増えてさ、たのしーって」
「へえ」
「だってよ、前の職場でありがとうなんていう奴いなかったもん。だるそーに当たり前のようにしてて、や、俺もだったんだけど・・・。だから、楽しい。忙しすぎると発狂したくなるけどな!」

はははははは!笑った。そいだら妙な浮遊感がおかしくて目をシパシパさせた。

「お酒っておいしーな、木舌!」
「そうでしょ、ほら、カシスミルクはどう?カルアミルクと似たような感じで甘いよ」
「おお、サンキュ!んめー」
「ははっ」

木舌に進められる酒は美味しくて、お酒ってこんなにおいしいんだなって。
妙な浮遊感と眠気。ふわふわとして気持ちがいい。


「また来ようね」
「、おお!」

”また”
その言葉がすごくうれしくて俺はうなずいた。


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