違う道





三日目の体験実習からは実際に任務についていくって感じなんだけど俺はその任務からは外されたぜ!理由は「お前がいく任務はろくなことが起きない」だってさ!だってさ!だってさ!!

「俺の責任じゃないし!肋角さんのばか!!」

だって!いや別に胃上と一緒に行きたかったとかじゃなくて一緒じゃなくて凄く嬉しいんだけどさ!俺がいく任務が危ないみたいなこと言われるとなんかアレだよ、アレ!!納得いかないです!

地獄風味のうめえ棒をムシャムシャ食べてこれから小一時間後にある任務に備える。内容は亡者化しそうな地縛霊の捕縛。俺一人だけど、まだ亡者化していないのと例え亡者化してしまったとしても俺の力で抑えられると判断してくれたから。

やっぱりばかって思ったの取り消します。俺の力量をわかってくれる肋角さん大好き。


「そろそろ行くかー」

ゴミになった包装をゴミ箱に捨ててきちんと武器をもって部屋をでる。階段を下りて広間に行くと私服姿の斬島が歩いてた。今日、非番なんだなー。いいなーいいなー俺も休みたいなー。休みまであと四日あるよー。うーん。やすみー。

「一人任務か?」
「そー、地縛霊の捕縛。俺だけだからたぶんそんなかからない感じだな。佐疫は任務?」
「胃上を連れて佐疫と木舌で任務に出ている。あちらは確か・・・魑魅魍魎の駆除だったか」
「うへえ、初日の任務がそれで平気なの?俺、死ぬ気でやった記憶が。しかも最近・・・」

魑魅魍魎はもう、あれです、数の暴力です。田噛によって餌にされた俺に一斉に襲い掛かってくるいつかの魑魅魍魎達を思い出して震えあがる。
大斧で攻撃範囲の広い木舌と佐疫がいるし二人とも気が利くタイプだからさ、田噛みたいに鬼畜でもないし。だから大丈夫なんだろうけど・・・。

「まあ、肋角さんが判断したのだから大丈夫だろう」

うむ、と頷く斬島。確かに肋角さんが判断したなら間違いはないけど。

広間の時計が音をたてた。任務の時間になっていて、やべーとこぼしながら斬島に手を振って、屋敷を出ていく。



そして空間を切り裂き目的の場所に足を踏み入れた。



そこは昼間だというのにどこか湿った薄暗いトンネルで、少し人気から離れた場所で、短い距離をつないでいる。
ひっそりとしたトンネルの影に小さな魑魅魍魎が、怪異が地獄の匂いを漂わせる俺を見ては隠れる。あのぐらいなら俺でも倒せる。


「地縛霊はー・・・子供かあ」

資料の内容を思い出そうと首をひねってすぐに俺の存在を不思議に思ったのかそれとも子供ながらの興味心で見に来たのかトンネルの壁からランドセルをしょった女の子が出てきた。

『おおきなひと』

整えられていない髪の合間から純粋を宿した目が俺をじっとみる。薄汚れた半袖シャツとズボン。ランドセルは表面に皺がよっていて破けてる部分もある。靴下だけはいた足首には朽ちた縄が括りつけられている。

小学校に上がりたての子。とりあえず子供に慣れてないながらも挨拶してみる。

「あー、こんにちわ」
『こんにちわ』
「俺は地獄に住む鬼です」
「おに?ごろごろ?」
『それとは違う鬼』

それは雷神だ。俺は神様に分類される鬼じゃなくてな、って説明してもきっとわからないんだろーな。俺は、とりあえず簡潔に物事を済ませることにした。

「その足についてる縄をなちぎりに来たんだ」
『なわ?わかんない。おにいちゃんはママ見た?』
「・・・あんな、お前のおかあさんは迎えに来ないの」
『だってママここでまっててねっていってたよ』
「けど、こないの」

ここの土地に縛りつけられている幽霊は、母親の迎えをずっと待ってる。けれど、その母親はこない。その母親はもうどっかにいったから。この子を置いて。

「こないんだよ」
『・・・』

目の前でしゃがみこんで理解したくないって呆然としてる子供の頭を撫でる。ぼさぼさの髪の毛は俺の指の合間で絡みつく。長年放置された伸びて汚れた髪の毛を手で少しそろえてあげる。少しだけましになった。

「だから俺と行こう。おかあさんの所には戻れないけど仏さまが助けてくれる」
『・・・ママ、あたしいらない?』
「・・・」
『いらない?』

涙を流すことない子供だけどもそれでも泣いていた。この子なりにもきっとわかっていたんだろう。母親は迎えに来ないって。生前の頃から自分は要らない子だったってのをわかってた。それでも少しの奇跡を願ってずっと待ってた。土地に己を縛りつけて、誰も迎えに来てくれない事に悲観しそうになりながら待ってた。

「お前のおかあさんじゃなくて悪いな。仏さまに次生まれる時はちゃんと愛してくれるお母さんを選んでやってくれって頼んどくよ」
『・・・なかないで』
「?ないてねーよ。よし、行くぞ」
『・・・うん』

突然、泣かないでって言われて俺泣いてんのか!?って顔を触ったけど泣いてない。子供の感性は強いって聞いたことがあるから何か感じたのかもしんないけど俺にはわかんない。一緒にあの世に行くことを選んだ子供。足首を縛っている縄を掴んで引きちぎる。これでこの子は自由になった。

そっと子供を抱き抱えて空間を裂く。この先にあるのは地獄だ。親より先に死んでしまった子供は三途の川の河原で救いが来るまで石を積まなきゃいけない。俺も短い間だけど積んで積んで積み続けて、救い上げてもらったけど、輪廻することは望まなかった。獄都で暮らすことを決めたんだ。

この子もその河原で石を積み上げながらきっといろんな事考えて考えて、答えを見つけるんだろうな。

「きっと次は大丈夫だよ。俺が言うんだからな」
『うん』

何が大丈夫で、何が俺が言うからなのかは俺自身もいまいち説得力ねえなって思う。けど、大丈夫だろって気がしたから大丈夫だろ。そんなもんだろ。そんなもんでいいじゃん。





空間をくぐる。





その先には、俺達が住む地獄の都が広がっていた。