もうライフポイントはゼロよ!




館の案内中、説明だけで会話は一切弾まず、俺の精神はごりごりと減っていく。
そしてなんとか終えて、書類整理をすることに。まだ半日も絶っていない現実に俺はとてつもない気だるさを感じている。
しかも所々、平腹が顔をのぞかせていてヘラヘラ笑ってやがる。普通なら、そんないらーっとさせる平腹を叩きに行くんだけど見習いがいるからそんなこともできやしない!胃がキリキリしてくるぜえ!!

「これから書類整理をしてもらうんだけど、この中には情報を漏らせない書類もあるんで俺が見ていいのとダメな奴分類した書類をそれぞれの分類にまた分けてフォルダにいれていってください」
「はい」

普段以上に書類があるのはなぁーぜぇーだぁー?!
どういうこっちゃと内容を見ると、担当者印の所に平腹と田噛の名前が。昨日今日の始末書じゃないものから今日やった奴の始末書、情報の書かれた紙が。こいつら俺がこうやって書類整理することをいいことに自分たちがやるべき仕事までもこっちにおしつけやがって。しかもこの始末書一週間前じゃねえかよ!すぐにファイルにいれろよ!日付順にファイルいれてんのにこれじゃ、そろえた用紙取り出して入れ直さなきゃなんねえじゃねえかよ!!
くっそ!!

「あー・・・これはおっけだな。これとこれは同じ任務の内容だからホチキスで止めてくんね?」
「はい」
「サンキュ。これは、・・・俺側だ、これはそっち。あ、日付順にファイルしてってくれ。もし新しい日付よりも古いのだったら、悪いけど取り出して入れ直しで」
「はい」
「ああ、それと、もしかしたら肋角さんの判子が押されてない書類があるかもしんねーからそしたら、俺に教えてな」
「はい」

あれとこれとって分けてく書類。隣では次々とやってくる書類をまた分類別にしてそれぞれのファイルにつめていく。時々、これはどのファイルでしょうか?と尋ねてくれてあれだこれだ、としているうちに、

「あの馬鹿平腹・・・あとでぶん殴る」とか「佐疫の字はやっぱ綺麗だなあ」とかいつも通りの感じでぶつぶつぼやきながらやってしまって「あの」というやけに冷たい声に、自分が今見習いを連れてる事を忘れていた事を思いだした。やっべ。見習いを見るってより手伝いしてくれる奴がいるって感じでしてたわ。うわ。

「あ、悪い」
「・・・いえ・・・けど、やはり情報課から来た方なんだな、というのは良く分かりました」
「!?」

俺、情報課から来たって話したっけか!?
驚きに胃上をみると少し嫌そうな、毛虫を見るみたいな目をしていて心臓にナイフがぶっ刺さる。

「少し前に施設で噂が上がりまして、意欲もなく給金泥棒しているという情報課下層からエリートである特務課に転勤になった獄卒がいる、と。それ、兆野さんの事ですよね」
「あ、うん。そう。というか情報課ってそんな噂あるんだ?」
「はい。だから施設を卒業していく方たちは誰もそこには行きたがりません」
「ソウナンダ・・・」

そんなに不人気なんだなあの情報課。そりゃあそうだよな。散らかり放題のだらけ放題だもんな。そりゃあ、いきたくねーよなあ。

「兆野さんはどうやって特務課になったのですか?」

鋭い目。
見習い胃上は評判が最悪な所から一気にここにやってきた事を不思議に思っているみたいだった。何か特別な能力があるんじゃないか。何か、目を魅かれるような事をして引き抜かれたんじゃないか。きっとそんな、希望の籠った理由を求めてるんだろう。

けれど、あいにくそんな素晴らしい事でここに来たんじゃなかった。俺はただ、人手不足の解消の為に、下働き程度の力量を前提にして選ばれただけ。情報課で要らなかくて、取りあえずっていう風にこっちに配属になっただけのこと。
特別な力も、能力も、何一つない。

けれど、胃上はそういう話を求めていて、俺はどうこたえるべきか迷っていた。
配属された理由を口にすれば見習いくんの顔はきっと曇るだろう。けれど嘘をついたってそんなの後でバレる。

どう、答えるのが一番なのか。

「あー・・・、んー・・・俺は、なあ・・・トクベツがあったから特務課に配属されたんじゃなくて、」
「はっきり話してくれませんか?歯切りの悪い会話は嫌いです」
「ア、ハイッ。・・・俺はただ、人手不足を解消するためだけに一時配属された獄卒にすぎないんだよ」
「・・・一時配属?」
「そ。特務課は夏付近になるとすんげー忙しくなる。それで手が足りなくて要らないの寄越せってなってそれで配属されたのが俺」

あれは吃驚したわ。突然、特務課に行けって言われてきて、今は仲良いけどその時はとてつもなく暴言吐かれてたし、けなされてたりで、すんごかった。飯食って死んだしな。それと同時にその時の俺は確かに見習いくんがきいてた噂通りの存在だったんだろうなってのはわかる。

「それでいろいろあって情報課を解雇されてて特務課に拾ってもらったってワケ」
「そうなんですかつまりお情けで置いてもらってるんですね」
「・・・」

淡々と言って述べた胃上の言葉が突き刺さる。
仕事には慣れた。けれど、どうしても他の仲間達に追いつけなくて成長速度が遅くて頑張っても他の奴らよりも誇れるものがない。胃上の言葉はそんな俺の不安という痛い部分を見事に抉ってくれた。

そこからはそれがずっと頭の中をぐるぐる回っていて、気が付けば仕事時間は終わり胃上の姿はなくて、自室の中を立っていた。


「あーあ」

すんげー疲れたな。
倦怠感がハンパなくて、俺はそのままベッドに転がってそっと瞼を閉じて眠ることにした。