刹那。 「・・・・あ?」 刹那の気絶に目を覚ませば、俺の部屋でした。 実は夢でしたーなんてオチ信じてる。 起き上がれば固くなった筋肉がぎりぎりと痛む。それに顔を顰めながら起き上がると扉に一枚の用紙が張り付けられた。 ”目を覚ましたら食堂においで−佐疫−” 「・・・とりあえず行くか」 夢か夢じゃないかは後でいいや。俺はとりあえず佐疫の置手紙に従って食堂へ向かった。 食堂に足を踏み入れればそこにはエプロンを身にまとった佐疫が待っていた。夕刻でもうキリカさんはいない食堂の中、におうのは甘い香り。 「初めての亡者相手の任務は大変だったね、お疲れ様」 「あっ・・・・・・ハイ」 夢じゃなかった。 なんだこれ。目の前の佐疫は棘がない。今までの一週間あんだけとげとげしていたというのに目の前の彼は鼻歌を歌っている。んで目の前にあるケーキに飾りでホイップをつけている。 ・・・。 なんだこれ。 「今朝はおれが悪かったよ、ごめんね。これ、お礼の代わりなんだけど・・・夕飯」 「ゆ、ゆうはん?」 「そ。肋角さんから君のその偏食の事で話があって、特別処置することになったんだ。君だけ、ご飯はお菓子の類にするって」 ま じ か ! ! 俺はその言葉に驚きながらも促されて椅子にすわる。目の前にあるケーキのホールはうまそうで、フォークを渡され切り取って口に、いれる。 「〜〜〜〜うっめ!」 スポンジがふわふわもっちり。クリームは舌にピリッとくる甘さではなく、すんなりと受け入れられる甘さ。いちごはいちごだけど良いのを買ったのか大きいし美味しい。中のクリームの層にはクッキーが混ぜられていて触感が面白い。 「よかったあ」 「佐疫さんって作るの得意なんすか?」 「ケーキとか焼き菓子の類だけだけどね」 「それでも凄いですよ。手料理で菓子喰えるって最高!」 「照れるなー」 ははは、そう微笑む佐疫にあの怖い佐疫の影などない。本当はこっちが本当なのかもしれない。人手不足て呼んだといってたから、ここにいる人たちストレスたまってんだろう。んで、俺がそれをぶつけられる立場になってたと。ああ、腹立つ!腹立つけど。 佐疫のケーキうまいから、いいや。 「それともう一つ謝りたいことがあってね」 「?」 「仕事が忙しくて君に当たってた所たくさんあるから・・・ごめん」 「・・・」 ぽかん。 まさか謝られるとは思ってなかった俺は目の前で頭を下げてる彼に慌てて手を振って顔をあげさせた。なんか!はずかしい! 「い、いいんですよ気にしないでください!俺、あの、ケーキ美味しいから、もう、いいんです!それだけ忙しかったってことだし、それっそれにそんな中で俺にいろいろ教えなきゃならなかったんですからあの、仕方ないかと・・・」 「・・・・・・ありがとう兆野」 「!い、いえ!」 妙なそわそわ感に変な気持ち。熱い。なんだろ。 前の部署じゃなかったぞこれ。前のところじゃあどいつもこいつも俺みたいにやる気も何もなくてだらけた口調でだらけた会話しかしなくて。だから。そう。佐疫との会話がなんだかとっても新鮮で面白い。そう、面白い。だから楽しくて興奮してるんだ俺。 「お、俺!邪魔にならないように頑張りますね!」 「!う、うん!ありがとう!」 俺の口からそんな言葉がでたことに驚き。 けれど佐疫はその言葉に嬉しそうに返事を返してくれたもんだから余計にうれしくなった。なんか満たされた。 「じゃあ、明日ちゃんと食堂にきてね。おれ、待ってるから」 「はい!」 嬉しそうに道具を洗って片付けた佐疫は、笑みを崩さないまま手を振って食堂からでていった。 俺も思わず手を振り返してしまい残りのケーキに目線をむけて一拍。 「・・・・・・・・・俺は女か!?」 つい先ほどの会話を冷静に思い返して、顔を真っ赤にして叫んだ。 恥ずかしい。 どう見ても乙女! 俺は最後の一口を名残惜しく食べ終えて片付けて、自室へと戻った。 ねよ。 次の朝、食堂に来れば佐疫の手招き。 近寄れば、そこに真面目で蒼い瞳をもつ獄卒斬島もいた。 いつかのため息と、使えないな、という言葉がよみがえる。 「・・・ども」 「ああ」 「おはよう、兆野」 「おはようございます、佐疫さん!」 我ながらに反応の違いにスイマセンと心の中で謝っておいた。 |