「ここは10年ほど前に神主がなくなってから廃神社になった。ひとけさえもなくなった神社は魑魅魍魎や亡者達の良い住処になった――ってとこだ」 目の前から飛びかかってくる魑魅魍魎をツルハシで裂いた。 田噛の背中を目に映しながら正面に立つ廃れた鳥居をみあげる。俺達にとっての10年はそんなに長くないけどこの世の10年はそれなりに長い。人がこなくなっただけで建物は腐りこんなにもぼろくさせてしまう。 昼間だってのに薄暗くて、人の気配より異質な空気の方が強い。湿気みたいに肌にじめりじめりとまとわりつく嫌な空気に溜息をもらしたい。 「俺達の今日の任務はここに巣食う魑魅魍魎の退治だ」 「へー!そしたら兆野どっちが先に倒したか勝負だな!」 「負けるから嫌だっての!田噛としてろよ」 「田噛とだと勝負になんねーの!」 田噛の説明を飲み込んだ平腹が騒ぎ出す。前回も勝負したけどどうやっても勝てないっていうかまだまだ未熟で経験豊富なこいつらに勝てたら俺、喜びのあまりに泣いちゃう。 勝負勝負!と誘ってくる平腹を喧しく思いながらヤダ!と返す中、田噛が俺達の名前を呼んだ。何?と顔を向ければ少し何か考える仕草を見せた後に面白そうに口元を釣り上げる。 「なら俺と兆野VS平腹で勝負するか?」 「え―――!オレとじゃねえの!!?」 「田噛平腹VS俺だと完全に負けんじゃねーか、勝負の意味ねえよ!」 田噛とがいい!と言わんばかりに声を張り上げる平腹の腹を平手打ちする。珍しく田噛が乗る気になってるの珍しいけど、田噛の案は確かに良いかもしれない。 まだ獄卒として未熟な俺に田噛がついて、相手は平腹。力量的には互角かもしれない。 「平腹相手じゃ兆野は力不足だからな」 「おおやった、俺もそれだったら勝負してやっていいぞ」 「ええー・・・・・・しょーがねーな。勝負しようぜ!!」 「よし。負けた奴は勝った奴のいう事聞けよ」 「「マジか!?」」 突然の田噛の発言にオドロキです。 勝負のルールとしては、魑魅魍魎をどれだけ倒せるか一点。してはいけないことは特にはないが、任務なので仕事の不利になるような事はしないようにすること。それらを踏まえて俺達は鳥居をくぐった。 この世の空間から神域であった空間へと足を踏み込めば地の底から沸く澱みにゾッとして尿意を感じた。うわ。帰りたい。こわ。 結構、こいつらに連れられたり、任務に行ったりでいろんな所にいったけれどもここは相当酷い。なんか、糞を踏んづけたような、げろを踏んづけたようなそんな足からゾゾゾってぅわああああってなるみたいな。え?わかんねえって?わかれよ。わかった奴仲間な。 「ぅわぁあぁぁぁ・・・気持ちわる」 「うげー、ひっでーの!すんげーのいんのかな?」 ざわざわと騒ぐ音、気配。薄暗い影の間からギョロリといくつもの目がこちらをのぞき込んだ。あ。無理。帰りたい。負けでいいから帰りたい。 怖気ついた俺の足が一歩境界線の外に出ようとさがる、けどジャラリという金属の音と首に巻き付く冷たい鎖によってそれ以上下がれない。 「逃げるなよ弱虫」 「ち、げーし!弱虫じゃねーし!!」 グイと俺の首に巻き付けた鎖を引っ張って境界線の中に引き戻す田噛。 見下し笑う田噛の笑みは邪悪だった。 「俺がお前を勝たせてやるよ」 「・・・」 そんな邪悪な顔で言われても説得力ないからな。 お前は悪魔か。僕と契約して××になってよ!とかいうのか?ああ? 首輪みたいに絡まってる鎖が引かれて田噛の眼前に。邪悪な笑みが目の前に。目が見開いてる!ちびる!ちびる!! 「勝つよな?」 「――アハイ」 一方的に契約を交わされた俺は先に走っていった平腹の後を追うように田噛に引っ張られてこの魑魅魍魎の巣窟の中へと入っていくのであった。 |