ストーカー亡者2




この廃墟ビルに憑りついている亡者達。そいつらは生前、女たちを食い物にし金にして生きてきた男達であった。どこかで無理やり捕まえてきた女を、金で売られた女を、泥酔した女を捕まえ無理やりな性交を撮影し売りさばく。違法集団。
それによって身体と心を傷つけられ、自殺した女は多数。そんな女たちの念が次第にこのビルを覆い男達へと復讐を果たす。

されど、そこで終わりにはならない。
女たちの憎悪に引き寄せられ成仏できなくなった男達の念が今度はこのビルに縛られるように集まり出したのだ。そこで復讐を果たした女たちの念をも取り込み怪物となりはてる。塊という怪物になった亡者達は、生前道具にしていた女へと執着を持つように。

廃墟ビルであるが故に廃墟を覗きに来る者たちがくる。女であれば捕獲し乱暴を、男と女たちであれば、男は怪奇死体として女は乱暴後に殺される。男のみであれば男共に怪奇現象となるものを見せつけ噂を広げ更なる人間を呼び寄せる。それにより行方不明、悲惨な死体で見つかった女は10体を越す。実に、危険な存在だった。

故に任務として請け負う事になったのだが特務室にいるのは皆男。男だけだと姿を見せない。キリカやあやこを使うのはとても申し訳がない。だから、女になってしまっている兆野を使う事にした。

兆野は亡者に対しては運がない。というか狙われやすい。兆野が強いのであれば問題はないのだがまだ駆け出したばかりの強さ。しかも何度か同じような目にあっているため本人も渋るかもしれない。それはそうだろう。だが、任務を遂行できる可能性は兆野だけにあった。

だから肋角さんは兆野へとわざわざスイーツで釣ってまで任務に参加させたわけだが。


「ここだな、反対側のドアは・・・」
「ああ」

通路を走り、反対側のドアにたどり着いた谷裂と俺。ドアの向こうの音や声は聞こえたがどういう状況にいるのかはわからなかった。谷裂が金棒でドアを殴る。ガァン!高い音を鳴らす―――が壊れない。へこみもしない。さっきいた場所のドアを一緒だった。

「チッ、こっちもか」
「壁も壊せそうにないな」
「となると内側からも壊せないか」

このビルに入ってから違和感ばかり肌で感じていた。それはこのビルが異界側に近いからだとばかり思っていたがそうではないのかもしれない。背にあるガラス窓をみる。外は夕暮れで鴉が飛んでいる。

「どうした斬島、」

カナキリを掴み、一閃。
キインと刀の音を響かせる。ガラス窓に居合切りをしたが、こちらも切れない。
入ってくるとき、正面から入ることができなくて一階の窓ガラスを割って入ってきた。その時物を壊すことができた。兆野が囮として中に入った時もおそらくはドアを破壊することができただろう。なら、どうして今壊せなくなったのか。

「・・・建物全体が壊せなくなった、ということか」

忌々しい。谷裂の苦い顔を横目に映し窓を開けようとする、が窓も開かない。完全に閉じ込められた。逃がさない為に。捕まえた女を、逃がさないために。

その捕まった女たちの末路は――――。

「谷裂、早急にどうにかしないと兆野が危ないぞ」
「ああ、わかってる!肋角さんに一度指示を仰ごう」

携帯を取り出し肋角さんへと電話をかける谷裂。壊れないと理解はしているものの、ドアを蹴り壊れないか、確認する。チッ。

女が男に乱暴される。兆野は男だが今は女の身体だ。中で逃げられていればいいのだが、捕まっていればおそらくは・・・。

「・・・くそ」


「斬島。佐疫達が来るそうだ。それと、抹本も」
「抹本も?」
「どうやら治療薬が完成したようだ」
「・・・なるほど」

その治療薬をどうにかして兆野に与えることができれば亡者達は兆野を女と認識しなくなるかもしれない。そうなれば助けることができるかもしれないな。


「兆野がうまく逃げ回ることができていればいいが」
「フン、逃げるのだけは一人前だからな」
「そういってやるな」

開かないドアの向こう。
そこで一人逃げ回る兆野。

何もできないことがとても歯がゆく、不安で心配で仕方ない。他の仲間達にはこんなに強く心配等を持つことはないのだが。佐疫が言うように、可愛い後輩だからなのかもしれないし、俺達のように特務課として選ばれた訳ではないからかもしれない。

どうか、打開策が揃うまで無事でいてくれ。