マジですか?!





「ひぃい」

『も、っともっとコロスおまえもあいつらもコロス面白い』





俺、兆野は今大変ピンチな状況でございまして、まだまだ馴染んでいない武器の巨大剃刀を手に持ってしょんべんちびりそうになっています。








―――人手がいる任務でなんと俺までも駆り出されて不慣れだし、ひ弱だし、と断ろうとしたがそれは田噛の舌打ちと平腹の貶しによってなかったことになり襟首をつかまれ引っ張られて現場に連れてこられた小一時間。


二人の姿がなくなった。

というか平腹が勝手すぎて一人はしゃいで暗闇の中に消えていった後に田噛はなんとめんどくさい、とは言ってその場で寝てしまった。俺はいったいどうすればいいんだ!そう田噛をゆすり問いただしたら「適当になんかしてろよ」とか蹴り飛ばされて痛みに悶えた。

こいつら忙しとか言いながらとってもエンジョイライフしててうらやましい!!俺もねてえ!!

けれど、こんなところ初めてくるしこの手にもってる剃刀も重い。けど怖くて手は離せない。亡者なんて初めてなんだぞ。

獄都から出たこともないしつうか情報課からもあんまでたことねえな。ひきこもりだよひきこもり。たまに獄都内で亡者が逃げ出して騒ぎにーとかという話を同じ部署の奴らから聞くが俺からしたらへーそーなんだ?という別世界の話だったし。




なのに。


ちょっと近くの部屋に入ってみようって入ったのが間違いで。少しだけ探索したあと部屋をでたらまったくしらない廊下にでた。田噛がいねえ!なんじゃこりゃああああ!!


「おーい田噛ぃ!!平腹あぁ!!!」


呼んでも返事なんて帰ってこない。

剃刀をもった手が震えた。静かな廃墟の中、自分の足がガラス片を踏んでなった音に肩を跳ね上げる。そうなると恐怖不安が些細なシミや遠くで聞こえる小さな音すべてが怖いものにかわるものだ。

「・・・・・・・・・よ、よし、あ、あれだ!ま、まずはしんこきゅぅぎゃああああ!!!」

何か首筋にぶつかった!冷たいのぶつかったいやああああ!!ぎゃああ!!!!うわぁあああああ!!!!

俺は全速力で走った。何も考えずがむしゃらに走り落ち着いたころにはさらに真っ暗闇な廊下の中だった。獄卒は少し夜目がいいがそれでもこうも真っ暗だとわからない。壁らしきものに手を触れる。これをたどっていけばたぶんきっとどこか明るい場所にでると思いたい。

「ここどこだよー・・・田噛ぃ・・・くっそー・・・」

壁伝いに歩いていく。そうしてどのくらい経ったのか。時計を持ってないからわからん。そうしているうちに手前が壁にぶち当たった。

ペタペタと触り触れている側の壁と質が違うのがわかってどうやら扉のようだった。だとしたら右下あたりにドアノブが。あった。

俺はそれをひねった。扉の向こうは廊下よりも随分明るい。裸の豆電球がブラリとぶら下がっていて時々点滅している。

やっと目にはいった光を眩しく思いながらも中にはいると突然バッターン!!と扉がひとりでに勢いよく閉まってしまった。

「うえぁ?!」

慌てて武器を足元に置いてドアノブをつかんで開けようとするが開かない。びくともしない扉を何度もたたく。まじかよマジかよ開けろよ!開けてくれよ!そう叫び混乱していた俺は、背後からの笑い声に動きをピタリと止めた。


なんかいる。


『また、来た。おもしろい、やつ』
「!!!!!?」


なんかいた!!!

剃刀を拾って構える。構え方なんか様になっていないけれど威嚇ぐらにはなってほしいという要望。刃がぶるぶる震えてる。情けないぞ俺。また笑い声。馬鹿にした笑い声で、豆電球の光が届く範囲の端に足が映った。嫌な音もする。なんか引きずる音。


ここで、冒頭に戻るわけだ。


『よわそ』
「ううううっせー!弱いいうなよ!」
『アハははあはは!!』
「!」

錆びた包丁が飛んできた。動くことすらできず、目を見開く。顔のすぐ隣に突き刺さった包丁。つばを飲み込んだ。動けない。怖くて動けない。

灯りの下に出てきた亡者。どす黒い穢れたからだ。ぽっかりと空いた目はそれでもこちらをきちんとみている。妙に長い手が俺と同じ軍服をきた男、平腹をひきずってやってきた。

ただし、上半身のみで、小腸大腸が伸びて出ていた。

俺より強い奴やられてんですけど――――!!?
つうか下半身どこいったああ!?!


『お、まえは、どう刻まれたい?』
「!!!?き、刻まれたくない!というか刻むなよっ!俺、刻む用じゃないからな!?」

刻む専用の俺じゃないんで刻まないでください!!

そう叫んで壁沿いに逃げれば視線だけ向けてみている。こんにゃろ、俺が怖がってんの楽しんでるだろ。また笑ってくる。うるせええな。

『まず、あし』
「!ちょ、ま、やめっ!あ゛ぐ」

見えない。けれど確かに何かが鈍く光ったのがわかった。それと同時に足元に衝撃。カァっと熱くなり次第にそれが痛みを発する。動いていた足が動かなくなり前方に転んだ。さらに足が痛くなる。痛い。痛い。

涙を溜めながら足を見れば足首が両足とも身からはなれて転がっていた。血溜まりが広がっていく。

「――――!!!」

あつい。あつい。いたい。いたい。だれか。

『おもしろいかお。つぎは、腿にしよう』
「!も、やめろ!痛いからっ!もう、いい、からっ!」

剃刀の先を亡者に向ける。動けないのに構えても攻撃なんてできやしない。それでもこれ以上の痛みは嫌でかまえた。腕が、切断された。

「ああああああああ!!!!」

剃刀が腕と一緒にガランと落ちる。腕の断面が見えて、肉と脂肪と血管が見える。うわああ痛い痛いいたいいたい。もうやめて。痛いから、もういいから。もう、いいからたすけて。

『おまえ、よわいなほんとうに』
「いたいっいたっいたいいたいっ!やめて、もうやめてっ!」
『うへ、ははあははは、やめない、やめないやめない!今度こそ、腿――』

「弱いものいじめしてんじゃねーぞ!おらぁ!!」
『ぎゃ!』

平腹の獣のように叫ぶ声に、目の前でにやにやしていた亡者が背後でほったらかしにしていた平腹によって足をつかまれ勢いよく投げられたのだ。上半身だけだというのに亡者を思いっきり投げた平腹はすごかった。

「いってー!!超いてぇええ!!めっさいてぇーーー!!!俺の下半身どこだし!?」
「・・・・・・・・・ひらはら、」
「兆野お前よえーのになんでこんなとこいんだよー!ばっかじゃねーの?」
「ばっ馬鹿じゃねーし!よ、よわいんだったら俺をつれてくんなよ!」
「ふぉ?なんとなくつれていきたかったんだよ!」
「な、なんとなくう!?」

足が切断されていなかったら動けないい平腹のところにいって、切断されてる腕がくっついていたらこいつを殴っていたところだ。なんとなくってふざけた理由に両足両手の痛みも吹っ飛ぶ。

そのかわり、フラリと血の気が引いていく。
血の流し過ぎによる貧血。このまま止血をしなければ出血死、あるいは大量出血死によるショックで一時的ご臨終。

俺自身ももう死んでいる身だが、獄都に住んで50年ほど、一度も死んだことがなかったからふつうと違う”死ぬ”に内心おびえてるよ。ばか!


「平腹俺無理死ぬ」
「は?死ぬなよ!俺も死にそうなんだけど!」
「無理!俺は!死ぬ!!」
「元気じゃんか!」
「お前もな!!」

互いに死にそうなのに死ぬな死ぬなと叫びまくる様子は確かに周りからみたら元気にしかみえないだろう。身体の一部が切断されてなければな!

視界がかすむ。かすむ中で、吹っ飛ばされた亡者がまたこちらに近づいてくるのが見える。

おい、平腹あぶねーぞ!そう叫ぼうとした口はパクパクと開くだけ。



ドゴオン!と轟音が聞こえ、ツルハシが見える。


その時に俺はとうとう死んでしまった。


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