心配だ







大変な事になった。


兆野自身の不注意とはいえ抹本の薬を崩して混ぜてしまい女性の身体になってしまったなんて。俺、佐疫は、女の身体になってしまった後輩兆野の今後を心配する。

だってそうじゃないか。男なのに、女の身になってしまって。それだけでもショックなのに。それに対してちょっかいだしてくる同僚達がいるんだから。特務室での木舌のように。俺は不安でしかたない。

不安で心配で、朝日が昇り始めた頃に目を覚まして兆野の部屋の前にくる。
シンとした空気。ドアの向こうにいる兆野はきっと眠っているんだろう。いや眠れていると思いたい。


ふう、と息を吐きながら窓の向こうの空がしらけるのを眺める。

こんな時間にここで何をしてるか、と問われれば不埒な輩が女となった兆野にちょっかいを出しに来ないように見張る為。頼まれてもいないのにこうしてしまうのはそれだけ弟分として後輩として彼が心配なのだ。

それを口にすれば田噛あたりに笑われるだろう。過保護だなって。確かにそう思うけど、仕方ないじゃないか。


そのうち、チュンチュンとどことなく雀の鳴く声が聞こえてくるようになったころ、一つのドアがあいた。タンクトップ姿で現れた谷裂が少し眠たそうな目で俺を認知し驚いていた。

「どうした」
「いや・・・、兆野が木舌とか木舌とか木舌とかに襲われないか心配で・・・」
「・・・過保護だな」
「あはは」

反論できない。呆れた顔で隣を過ぎていき鍛錬所へと向かっていってしまった。
そこからしばらくすると今度は斬島のドアが開く。斬島も谷裂と同じように眠たそうな目で俺を認知したのちに目をぱちくりとしてみせた。

「おはよう斬島」
「ああ、おはよう。珍しいな、何かあったのか?」
「ううん・・・兆野が心配でね」

ああ、成程なと返事を返してくれる斬島。その目からは谷裂のような呆れはみえず、こうして受け止めてくれる真面目さに気持ちが少し楽になる。

「俺は鍛錬に行くが、佐疫はどうする?」
「僕は兆野が起きるまでここにいるよ」
「わかった。ではまた後でな」
「うん、ありがと斬島」

斬島も谷裂も本当に真面目だよね。階段を下りていく後ろ姿を見ながらそっと息を吐く。兆野が起きたら、どうするかを考える。本当はきっといつも通りに接しなきゃいけないんだろうけど男の時と違って勝手がかわるはず。
とりあえずはまずキリカさんとあやこに事情を説明して女の必需品をそろえてもらわないと。それと使い方。

「んー・・・」

けど兆野本人としたらどっちのほうがいいのかな。女性にそれを教わるのって嫌かもしれないし、だからといって男の俺達からそれを教わるってなると逆に俺達がきっと大変だ。いろんな意味で。やっぱ、女性に任せた方がいいのかな?

兆野の部屋のドアからガタン!と音が聞こえた。そこからない!ない!という震える声。俺の息子がない!夢じゃない!!と嘆く声が聞こえて、そうだよね、と同情する。
俺も一瞬で女の姿になって今まで普通にあったモノとかなくなってたらとてもショック受ける。


兆野のドアをノックした。


「兆野?大丈夫?」
「――佐疫!」

すぐさまドアを開けて出てきた兆野の姿に悲鳴をあげそうになった。

シャツだけを着て女となり胸が大きくなった為に窮屈そうな胸部分。しかもブラジャーなんてもの持ってるわけないのでその、実に、大変な事に形がくっきりしてる。で、下はトランクスなんだけどもそれでも女体化して丸みを帯びている脚があらわになっていて俺は、なんというか、恥ずかしいよ兆野。男としてそんな姿を見てしまって、恥ずかしい。顔に熱がこもるのがわかる。


「佐疫佐疫佐疫どうしよどうしよ・・・!」
「まっまずは服を着て・・・!っていうか抱き付いてきちゃダメだよ!」
「俺のずっとこんなんだったら嫌だああああ!!」

ああ、抱き付いてくるから胸が。兆野の胸がっ!!うわああ!

逃げようと一歩下がったら兆野の体重でバランスを崩して転倒。柔らかい感触が胸元でムニュリと圧してきてもう、もう!



「っっ兆野どいてえええ!!」




俺の理性がどうにかなりそうだよ!!