ぶわっ




『ぼっちになったの?さみしい?くるしい?いたい?アハ』
「・・・っ・・・う、るせえ」
『ぼっち!うける!!けど、安心しろよ?俺たちが一緒にいてやるからなあ!』

うるさい。こみ上げてくる涙も、この寂しさも、こいつらの声も全部うるさい。うるさい。うるさい。
田噛は戻ってくるんだ。

ぼっちじゃねえ。


『にいちゃん、何して遊ぶ?』
『そーだなー!手足もいで、それから―――』
『にいちゃ?』

亡者の兄が顔の色をなくす。
首だけがぐるりと田噛を投げ捨てた箇所に向いてじっとそこを見ていた。

弟がどうしたの?と問うてきて兄はその問いに答えることはなかった。
代わりに、忌々し気に、怒りを込めて、吼えた。





『ふざけんなあああああ!!!』


その声と同時に、暗い空間全体にひびが入って。
砕け散った。


「兆野、助けにきたよ」

砕け散る空間の外で、さっきここから放り出されたはずの橙。それと黄、青、水、緑、紫といった見知った瞳の色が見えて俺は泣きそうになりながらも弱弱しく微笑んだ。





そこからは嵐のように早かった。


兄弟の亡者は俺を人質。いや、獄質?卒質?いや、鬼質?をとった。俺は質にとられた恐怖よりも仲間が先輩達が助けに来てくれたことにだらしなくも鼻水と涙をだらだら流しながら泣きじゃくってた。全員に見られたことは絶対後悔するけど、その時だけはそんな事考えることもなかった。

本当にうれしかったからね。なんだかんだ不安だったんだし。

人質とされたが、佐疫の拳銃が炸裂。弟のいくつの包丁がそれを防ごうとするけれども二対六ではどう見ても劣勢でしかなくて佐疫の拳銃に気をとられてる間に木舌によって俺は救出されて、武器が手元に戻った田噛が平腹と兄弟の亡者を叩いた。

これが数の暴力ってやつだな・・・。



俺と田噛で太刀打ちできなかった亡者は、あっけなく捕縛されてしまった。


鼻水と涙で濡らした顔を拭いてくれる佐疫に感激して涙が止まらないし、無事に助かったな!と田噛に泣きながら近づけば殴られた。お前が馬鹿なおかげで散々な目にあったって!ひでえええ!

「だが、結果的に兆野が弱かったおかげで田噛は外に出られたし、俺達も居場所が判定できた」
「斬島、それフォロー?フォローしてるの?けなしてるの?」
「?いや、無事助かった要因を述べてるだけだが」

悪意がないってこわい。斬島ってホント良いことも悪いことも口に出すよな。しかも間違ってないからなおさら言い返せん!弱くてスイマセンねえ!!

木舌に背負われて家に、じゃなくて館に帰る。泣いてる間に怪我は再生したんだけど、とりあえず温もりを味わってたくて木舌におんぶしてもらってた。木舌背中が広いんだよなあ。

帰りが随分遅くなって、皆で特務室に入ればいつもよりも多く煙管を吸っていたのか執務室はまるで霧の中にいるみたいだ。扉が開かれたことによって空気換気された執務室。その中で、肋角さんは紫煙を吐き出し、夜が明けようとしている窓の外を見ていた。

「ただいま戻りました」
「ああ。大事はないか?」
「――はい!」

とっても大事あったし、痛かったけどここに戻ってこれたってだけで凄い嬉しい。 
夜が明けるまで帰りを待っててくれた肋角さん。睡眠をなくしてまで助けに来てくれた先輩達。ぜってー前の情報課にはそんな奴いなかっただろうし、生前の親もそんなことしてくれた記憶はない。



「任務中に現れた二人の亡者は無事、閻魔庁に連行された。田噛、兆野。それと救助に出た皆、ご苦労だった」
「はい!」

木舌の背中から飛び降りて背を伸ばす。先輩達も同じように背筋を伸ばして煙管の火を消した肋角さんへと視線を向ける。

「特に田噛と兆野は心身共に疲れが溜まっているだろう。明日――・・・といっても今日だが、ゆっくり休むといい」

こうして初めての拷問事件は幕を閉じた。





・・・つうか休み!やった!!