ゴーン。 ゴーン。 ゴーン。 現世の夜空に除夜の鐘の音が鳴り響く。 ひんやりとした空気に息を吐き出せば白くなり、肋角さんの煙管の煙みたいだなってしゃがみこんでいた体制を変えるために起き上がる。 除夜の鐘は人の百八つの煩悩を消すためにうちならす為に打つらしいけどそれだけじゃ人の煩悩は消えない。きっと百八つ以上に煩悩があるからなんだろうな。 ゴーンンンン・・・。 夜中なのに、どこからか太鼓の音が聞こえる。 どこかで新年行事をしてるんだろーな。古い年と新しい年の境目の今はとっても静かに澄んでいる。くうきも静かで、落ち着く―――――とか今思えないわ。 「おらおらおらおら!」 「・・・」 目の前で平腹が亡者をボッコボコにしてるからな。 もう悲鳴も出ないほどにボコボコに踏まれてる亡者憐れ。 つーか田噛どこ行った。 「平腹ー、田噛どこ行ったんだ?」 「ふぉ?あー・・・しらねえ!」 「だよな。つうか、もう亡者白目向いてるからやめてあげなさい」 「おお、ホントだ!気付かなかった!!」 ゲラゲラ笑いながら縄を適当に巻いて縛りつける。そしてミノムシとなった亡者をズリズリと引きずってこっちにやってきた平腹には血がいくつも付着してる。うっわ、亡者グロテスク。 「たーがーみー!!」 「帰るぞー、帰っちゃうぞー、むしろ実は田噛先に帰ってるとか?」 「あり得るな!」 「だろ?」 寒いし、時間的に眠いし。 俺もあくびがでるわ。あーあ。亡者は捕まえたし帰ろう。そうしよう。 平腹は亡者を引きずりながら田噛ー田噛ーと叫んであっちこっち歩き回る。 明日もまた仕事あるんだからかえって寝たい。というかなんでお正月休みないの?なんでないの?? 夜道の暗い影で動く何かに気付いた。 こっちに近づいてくる影に、亡者?亡者なの?!とビクビクしながら凝視してると月の光に照らされた影。 橙色の半月の目。 ツルハシを肩に担ぎ、もう片方には小瓶を持っている田噛だった。 吃驚させんなよ!ばか!! 「田噛、お前どこいってたんだよ!」 「あ?あー・・・そこらへん」 そこらへんってなんだよ。めんどくさいのわかってるけどそれぐらい答えろよ!マジでびっくりしたんだからな! 「てか、その小瓶なに?」 「これか?なんでもねえよ」 「???」 コルクで栓をされた小瓶の中身には何も入ってない。来るときには持ってなかったそれで、中身も何もないもんだから不思議にマジマジみてればみんなと睨まれる。 気になるー! とりあえず、平腹呼んで帰ろう。もう疲れた。まじで寝たい。 「まあ・・・いっか。おーい平はング」 向こうにまだ探してる平腹を呼ぼうとしたら唐突に口を抑えられた。なんだよ!?と背後から口を抑えてくる田噛に視線を向ければこれまた歪に笑ってやがる。 こいつが笑ってるだと?! 初めての笑う顔に動揺していた俺は小瓶のコルク栓がスポンと外された音に気付かない。ただ、その代わり背後の田噛がケラケラと笑いながら耳元でなんて呟いたのだけはわかった。 「つかまえた」 「は?」 そこから周囲の光景がかわる。 ビデオテープを巻き戻してるみたいに、月の動きが逆に動く。道を歩く生者の動きが後ろ向きに、遠くで聞こえていた平腹の声がだんだんと近づき、亡者を先頭に視えない何かに引っ張られるように戻ってくる。 その光景が段々と大きくなり小さくなり早くなり進んだり戻ったりもうどうなってるのかわかんねえ状況になって、最後には真っ暗。 最後にキュポ、と何かはめられる音が聞こえた。 「お?おお?ど、どーなってんだ?」 目まぐるしく変わる光景が終わりを告げた闇の中で、目をぱちくりとさせる。 真っ暗だし真っ暗。電気の紐とかねえの?なんて宙に手を伸ばして探したり。 あったらすげーわ。 とりあえず、現状確認しようかな。 俺はその場に座り込んた。 |