マジ嬉しい!!




いつも寝ているベッドよりも固い。草の匂いがする。
んん?俺は寝返りをしようとして誰かの腕によってこの身を抱えられてる事がわかってうっすらと目を開けた。

目の前に、佐疫がいて吃驚して起き上がった。

「っぅ、―――〜〜〜!!」

田噛にツルハシで何度も刺し貫かれた時のような痛みが頭を刺激した。いってええ。いたい!なにこれいたい!

隣にあった温もりが消えた佐疫が唸り、そのままゆっくりと瞼を開けて水色の瞳をうつした。

「・・・兆野、おはよう・・・ぁいたたた、二日酔いだあ」

そうか、俺のも二日酔いか。
眉間から頭上までズキズキズキと痛むそれ。周りを見渡せばみんな寝転がってる。

「起きたかい?」
「ぅぁ、災藤さんおはようございます」


災藤さんが水をくれて、一気に飲み干す。仄かにレモンの味がして少しだけ楽になった。肋角さんの姿だけ見当たらなくて災藤さんに尋ねれば「先に仕事に行った」って。なんだかんだ肋角さんが一番忙しいんだなあ。というよりも災藤さんも肋角さんも見たところ平気そうにしてる。
案外木舌よりも強いのかな。


「酒屋の主人に朝食頼んであるから。それをたべたら仕事だよ」
「はい」

佐疫が頷く。

「じゃあ、お先に」

コートを羽織りボタンを留め軍帽を被る。そして夜通し忘年会をしていたとは思えないしっかりとした姿勢で出て行ってしまう。

「災藤さんと肋角さんすげー」
「あはは。さて、みんなを起こそう」
「はい」

痛む頭を抑えながらまずは身近で転がってる抹本を起こす。まだ眠たそうにしながらも上半身起こした。次に、パンツ一丁でいびきをかいてる平腹。なかなか起きなくて殴ろうかなと思った矢先で佐疫が寝ている平腹の顔に水を溢した。

「びびゃあ!?」
「おはよう平腹」

おおう・・・。そのにっこりとした笑みがこわいっす佐疫サン。

意地でも起きようとしない田噛と、揺らすたびに寝言しか言わない木舌を苦労して起こす。その間に谷裂と斬島は自力て起きて朝食であるあさりの味噌汁を啜っていた。



また、いつもの日常が始まる。








「佐疫、向こうに亡者が逃げていったぞ」
「わかった。兆野行こう」
「はい!」

斬島と佐疫の後を追って同じように走る。
なかなか亡者相手で負けてしまう俺はとりあえず出れる限りの任務に一緒にでることにしようと思い今日二人に声をかけた。二人は一つ返事で応と返してくれて、三人で廃ビルの中に逃げ込んだ亡者を捕まえにいく。

田噛や平腹の時と違って放置されることがなく佐疫や斬島からアドバイスや指示もくれて心に余裕がある。指導者の性格って大切だな!

亡者の背中が見える。黒いドロリとした身。顔がこちらを向いて忌々し気に歪ませる。逃げていた足が止まり、逃走を諦めた亡者が逆に距離を詰めてくる。うあ。逃げ腰になりかけた俺はなんとかとどまり迎え撃つ為に先を走り出した斬島の後を追う。

斬島の居合い。ギラリと妖しく光る刀が亡者を斬りつけようとするが避けられる。素早い。まて!という言葉と共に跳躍し亡者へと刃を振りかざす。亡者が唐突に高笑いを始めた、かと思えば宙に跳ねた斬島にのしかかる怪異。黒い塊にいくつもの目が浮かびケタケタと斬島をあざ笑う。

「斬島!」

怪異をどかさないと。剃刀をしっかりと握って怪異へとそれを振るう。ザン!黒い塊が二つになる。ケラケラケタケタ。笑い続ける怪異はそのまま消滅した。斬島も大した怪我がなく、すぐに起き上がろうとしている。こちらを見た斬島の目が開かれた。

「兆野、後ろだ!」
「!」

反射的に振り返れば、亡者が金属バットを振り下ろしている。それで生者を殺してきたのかボコボコの血まみれのバット。やっべ。避ける事ができず、咄嗟に身構える。

銃声。
亡者の腕が吹っ飛んだ。

「とどめを!」

佐疫の声に反応し、すぐさま剃刀を下から斜め上へと、斬る。
ジュウウという蒸発する音と共に亡者は悲鳴をあげた。いくらか姿が小さくなってしまった亡者は重度のダメージを受けたためか動かない。その間に捕縛する斬島を見つつ、自身の手のひらをみつめる。


俺が亡者を捕まえた。
手助けこそあれど、とどめを刺したのは俺だ。
今までできなかった事が今、ようやくできた。ひとつ成長した。できた。心の底から達成感と喜びが浮き上がる。

「兆野、やったね」
「う、あ、はいっ!」

佐疫に褒められて拳を握った。やった。やった、やった!
帰ったら報告しよう。自慢してやろう。谷裂はなんだかそのぐらいで、とか言いそうだけどそれでも自慢しよう。亡者倒せたって!



「兆野もそろそろ一人前だな」
「いやっ、まだまだだって!ほら、二人がいてくれたから・・・!」
「そんなことないよ。兆野が怪異を倒したおかげで俺は亡者を狙う事ができたし、」
「俺はお前が怪異を倒してくれたから大きなけがを負わずにすんだ。それに、姿勢が整ってない俺を庇ってくれたしな」
「うっ・・・やめてくださいよ!恥ずかしい!!」

ここまで褒められるとすんごい嬉しい。顔も熱いし恥ずかしくて手で隠してどこかに逃げたいくらいだよ!乙女じゃないんだからな俺は!
これ以上褒められると奇声をあげそうだ!俺は、話題を変えようと昨日の忘年会の事を口にする。

「そ!そういえば!お二人は肋角さんから何を貰ったんだ?」

忘年会の時には肋角さんからプレゼントがあるらしいという話。昨日の忘年会では何ももらえなかったんだけど部屋に戻れば机に置かれていた。肋角さんからのプレゼントだ!一人でテンション上がってた。

「俺はね、新しいお菓子器具」
「俺はよくわからないが、バランスボールというものを」

斬島がバランスボール。
想像すれば妙に違和感があって笑えて来る。

「へえ。なら今度やり方教えてあげるよ斬島」

佐疫も同じなのかクスクス笑っていた。

「ああ、助かる。それで兆野は、何をもらったんだ?」
「え、俺?」

話題を変えようとしてつい口からでた事だが、俺自身が訊ねられるとは思わなくてスットンキョンな声を出してしまった。
二人の青系統の目が返答を待ってる。


「俺はねー・・・ゴデバのチョコレート!!」
「ゴデバ?」
「高級チョコレートを扱う店だよ。結構高いんだよね」

しかも一番高くて量も多い奴。包みを剥がしてそれを見た時には今すぐにでも特務室に赴きありがとうございますありがとうございます!!って土下座したいくらいの気持ちになった。

「帰ったら一つあげるから!」

今でも思い出せるからな。
あのココアの味、程よい甘味。まろやかさ。


亡者も倒せてチョコレートもたべれて、本当に良い事ばかり。

特務課に来なかったらずっとずーと腐ってたままだったろうな。



「ありがとう兆野」
「ああ、ありがとう」


佐疫の笑顔と、斬島の僅かな表情の緩み。

”ありがとう”

その言葉が嬉しくて、笑顔を返した。