「兆野は事務面では充分なんだけど、戦闘がね・・・」 「そうだな。それさえ良くなれば一獄卒としてやっと数えられるんだが」 「・・・スイマセン」 正面にいる肋角さんと災藤さんの溜息。 意外とこの二人っていうかここの人たちって言葉がきついときがあって、仲良くさせてもらってそういうのあまりなくなったんだけど上司である二方はやっぱりこういうのは時々いってくる。 いや、まあ、仕事に関してだからいつまでも半人前でいるわけにはいかないけどさああ! もうちょっとオブラートに包んでください先生!! 「怪異相手なら一人任務ができるが、亡者相手となるとできないところがな」 「事後記録によれば、兆野自身で亡者になじられたことはあっても捕縛したことはないね?」 「ハイ・・・スイマセン」 「ここ特務課はなんでも課だ。つまり、全般的な事を”できなければ”ならない。言ってる意味わかるな?」 「ワカリマス・・・」 特務課はなんでも課、と軽く言われるが中身は何でもこなせるエリートでなければならないんですよねー。はい、俺、エリートではないです。情報課である程度の事務処理や情報管理はできるけど戦闘に関しては素人です無理です。 けども、まだ拾ってくれた恩も返せてないし、俺自身ここを辞めたらどこに行けばいいのかって考えると不安でトイレから出られなくなる。 戦闘能力をどうにかしなさい。 って静かに怒られた俺は特務室から出た時にはげっそりとしていて目の前を通った斬島に心配された。 あの真面目すぎてうまく心情を拾えない斬島に心配されるなんてっ・・・! けど、そんな斬島よりあきらかに断然として俺の方が戦闘能力低くて、俺は斬島に縋る。ええい、プライドなんてものゴミ箱にすてろお!! 「斬島様!!俺に戦い方教えてくださいい!!!」 「鍛錬か。いいだろう」 「うわあああああありがとうございます斬島様あああああ!!!」 「・・・うっとおしいな」 うっとおしくてスイマセン斬島様!!!!! 「まず一つ、兆野が直さなければならないのは逃げ腰になることだ」 鍛錬所で木刀を床に立て構えている斬島。同じ型の木刀を両手に持って話を聞いている俺。斬島のいう事はまさにその通りで、亡者が現れれば俺は逃げ腰になる! だって、怖いんだもん!! 「二つ、武器の扱い方だ。基本はできているようだが、実践はまた違う。兆野はまず戦う、という事に慣れろ。ということで俺と模擬戦する」 「ル・・・ルールは」 「武器はこの木刀。そして・・・そうだなまずは簡単に一時間、俺の攻撃を避け、俺へと攻撃を一撃でもいい与えてみろ」 そう木刀の切っ先をこっちに向けた。 ギラリと青い目が俺を捉えて離さない。怖いんですけど!? 「おおおおおねがいします」 「兆野、腰が曲がっているぞ。腕も震えている」 「ススイマセん!」 完全逃げ腰モードですねハイ! 「殺す気で来い。でなければ俺がお前を殺す」 「―――ぴゃ!?」 斬島の足が動き出した。木刀が横に振られ慌てて受け止める。ガキン!と木同士がぶつかり合う音がするけども、斬島の振りの威力に耐え切れず木刀が手から離れ吹っ飛んだ。 殺される。頭を真っ白にしてしゃがみこみ身を守る。 何も来ない。 「兆野、武器を拾え」 「――――、はいっ」 顔を上げれば表情一つ変えない斬島が見下ろしてる。 言われて慌てて木刀をとりに行く。 「武器が手元になかった場合、体術を使えないのであればただ幼子のように身を守るのではなく逃げることに徹底しろ」 「に、逃げきれない場合は・・・?」 「意地でも逃げろ。お前は獄卒が不死身だということは知っているな」 「はい・・・」 「逆を言えば”死ぬことができない”ということになる。そして特務課には簡単な仕事から危険な仕事まで舞い込む場所だ。ならば、仕事の相手が鬼畜であり、束縛され死なない事を良いことに拷問を受けたのだとしたら?」 「・・・死ぬことはないですよね」 「そうだ。死なない。しかし痛みはある。その拷問がもし、長期間で行われるとしたら?」 「――――・・・どう、なるんですか」 不死身といえど痛みはある獄卒が、亡者を捕縛することに失敗しそいつに拷問を受けることになったら。そして誰も助けに来ず長期間拷問を受けたのだとしたら。 受けたのだとしたら。 「死にはしない。だが、心は死ぬだろうな」 「・・・っ」 斬島にはそういう経験があったのだろうか。過去にそんな酷いことをされた獄卒がいたのだろうか。 斬島の言葉に俺は、その不死身という事に対しての損得を突き付けられた。50年間今まで考えたことなかった。不死身だ。死なないんだ。それだけの気持ちで獄都に生きていた俺は。情けない。 「相手を見て勝てないと感じたのならば全力で逃げろ。今のお前にはそれが一番の勝利だ」 「勝利・・・って・・・だって、それじゃあ・・・逃げてる」 「そうだ。そして悔しさを糧に強くなれ」 「・・・」 俺は自身が持っていた木刀を強く握りしめ、斬島を睨んだ。 正面でそらさず見つめ返す斬島の表情が少しだけ、柔らかくなった気がした―― |