まじぃ?





俺は今、とてもすごいショックを受けてる。



この地獄に隕石が落ちて消滅してしまう!という現実を目の当たりにしたくらいの衝撃的な事に膝から崩れ落ちてしまいそうだ。

俺的に言えば、お菓子がこの世すべてから消え去ったかのようなそんな絶望感。






「地獄商店の限定スイーツラズベリーと目玉の血の池地獄風味チーズケーキがない!!!!!!!」






館内に俺の悲鳴が響き渡った―――――。









それから数十分後には館に現在いる者たちが食堂に集まってくる。厨房の冷蔵庫前で膝をおり床に沈んでいる俺の姿を見つけた第一発見者はテーブルを拭いていたキリカさんで、一緒に手伝っていたあやこさん。そこから鍛錬してたであろう斬島と谷裂があらわれた。

「どうした!」
「何があったのだ」

うなだれて動きをみせない俺に何事かと声をかけてくる二人。唯一事情をわかっていたキリカさんが代弁してくれた。

「どうやら兆野ちゃんが買ってきたおやつ誰かに食べられちゃったみたいなのよ」

「そんなことで騒ぐな馬鹿め」
「そ、そんなことってなんだよ谷裂いい!!」
「ぬわ?!」

そんなことで。そんなことのわけないんですよ谷裂さんん!!

俺は床を這いつくばって谷裂の足元にたどり着くとそのズボンをつかみ彼を見上げる。充血している目でカット見開いて見上げる様は、谷裂からみたら亡者に見えただろうな!
ちきしょう!

「あれはなあ!期間限定物なの!わかる?!それでいて生産も少なくて今の時期だけ発売されてて材料もふんだんにつかわれてるしその材料自体なかなか手に入らないレアなもので赤いソースなんてあの血のような鮮やかな色をだすためにどれだけの労力を重ねてるかわかる?!開店時間前から並ぶから前日の朝から並んで待たないと買えないしこれ買うために佐疫や平腹や肋角さんに必死に土下座して話してなんとか休みもらったのに!?そんなことって、そんなことじゃないんだよー!!!!」
「・・・わ、わかったから離れろ」
「兆野の言葉は呪文のようだな」

スイーツのこと大して知らない奴からしたらさぞ呪文だろうな斬島ぁ!
谷裂のズボンから手を離してまたうなだれる。もう絶望的だ。この世の終わりだ。

「しかし・・・誰かが食べたとなると誰なんでしょうか?」

あやこさんの控えめなコメントに一拍置いた者たちは自分じゃないと否定する。

「そもそも黙って喰わんぞ」
「そうだな。それほどまでに菓子に餓えてるわけでもない」
「私もさすがに食べないわよ。兆野ちゃんあんなに楽しみにしてたのに」
「わたしなんて今、知りました・・・」

谷裂なんて盗み食いするような性格じゃないし、斬島だって真面目だから断りをいれるだろうし、キリカさんにはあのデザートを入手するのにどのくらい大変な事をしたのか話してるからないだろうし、あやこさんなんて今知ったていってるし。

可能性としては平腹だけど、あいつ任務で今いないし。田噛は、わかんね。佐疫だって黙ってくったりしないし。肋角さんや災藤さんがんなことするわきゃねえし。

なんなんだよ。誰だよくったの。
俺のスイーツ!


「俺の・・・デザート・・・」


ああもう仕事なんてやれない。俺のこの哀しみは計り知れない。もう寝ようふて寝して仕事さぼろう。そうだそうしよう。そうするべきだ。


「どうかしたのかい?」
「災藤さんん!俺のデザートが!」

廊下にも響いていた俺の声に何事かと顔を出した災藤さん。事情を説明すれば、そっと俺の頭を撫でて「災難だったね」と声をかけてくれた。俺を気にかけてくれる言葉に俺を涙を滲ませ災藤さんに飛びつく。避けられた。なぜだ。

「ああ、そうだ。さっき仕事の帰り道に美味しそうなお菓子が売ってる店があったから買ったんだ。それを代わりにあげよう」
「ほんとっすか!災藤さん!!」
「ああ。だからほら、いつまでも床に這いつくばってないで起きなさい」
「はい!」

俺を持ち上げて立たせてくれた災藤さん。持ってくるから待ってて、とその場を去っていく彼に熱い視線で見送った。






それが昨日の話。



「・・・」

「な!災藤さんマジ最高だよな!」

「・・・・・・」


休憩室ではしゃいでいる兆野の話を聞いていた田噛は、犯人が誰なのか理解したのだが本人のこの喜びようをみていると口にだせず無言で終わる。さてはて犯人が誰かわかっている奴は何人いるか。そいつらもきっと同じ気持ちなんだろう。

目の前のまだ子供の姿の兆野がああも喜んでいると誰もかれも口にだせなくなる。



「んまっかったぞー!」

「そうか」

「それから今日もな、災藤さんお菓子くれたんだ!」

「・・・へえ」

「それから明日も、なんかくれるって!」




「・・・・・・へえ」