「貴様っ、まて!」 「まてって言われて待つ奴はいねえ!!」 ガツン。バキ。ガッターン! 幼児化した兆野はその歩幅の短い足で俊敏に走り回り谷裂の金棒から逃げる。幼児化して二日たった現在、なんとさらに縮み14歳ほどだったのが今や10歳に。身長もそれに合わせ小さくなり知識や言葉も合わせて稚拙になる。 10歳のやんちゃな子供となった兆野はすっかり子供となってしまっていた。 「ばーか!はーげ!」 「きさまあああ!!」 己の武器を振り回し壁や床をぼろぼろにしていく谷裂はもはや完全に血がのぼっている。攻撃の速度も尋常ではなく、それを避けている子供兆野も尋常じゃない。 いつまでも兆野を捕まえられない谷裂をほくそ微笑み廊下の角を曲がる子供兆野。 一つの部屋に素早く入り扉をしめる。内鍵を閉めて部屋を見渡した。 物置のようで、よくわからないツボや本の入れられていない空の本棚。それに脚立やバケツなどが歩く邪魔にならない程度の雑に置かれていた。 それらの隙間に入り込み、隠れよう、と決めた兆野は物置の奥へと小さい足を進めていく。 奥の方に行くとだんだん薄暗くなっていき、その暗闇の恐怖に足が一度止まる。 だが、出入口の扉の方から谷裂のどなる声が聞こえ、兆野は無理やり足を動かした。 「・・・」 くらい。こわい。くらい。 奥行のある物置部屋は奥に行けばいくほど無音に近づいていく。匂いもしけった匂いになり出入り口付近のよりも使われていない物があちらこちら。そして狭い。 子供兆野はその狭い道を潜り抜けて歩いていると横に立てかけてあった物に肩をぶつけてしまった。ほこりがかぶらないようにかぶせてあった布がサラッと床に落ちた。 「わっ・・・あ・・・かがみ」 暗くてよく見えないが、兆野が反射して映っているところをみるとどうやら姿見の鏡のようだった。 反射する自身の姿に驚いてしまったことを恥ずかしく思いながらもじまじまとそれを見た。古いシンプルな鏡。こんな薄暗い中でもわずかな光を反射している面は不思議と”生きている”感じがする。 鏡にうつる自身がこちらをじっと見ているような気がする。反射しているのだから当たり前なのだが、視線が違う気がするのだ。その奇妙な気持ちに兆野は鏡に手を伸ばす。 鏡の中の己も手を伸ばし互いの手のひらが重なろうとした、時。 襟首をひっぱられた。 「見つけたぞ!こんなところまで隠れおって!!」 「げっ!たにざき!!」 「来い!説教だ!!」 「あっ、ちょごめんなさいい―――!!!!」 「許さん!」 逃げられないようにしっかりとつかまれた兆野がズリズリと床に足を引きずりながら出入口の方へと連れていかれていった。 「・・・」 それを面白そうにけらけら笑う子供兆野が鏡の中で見ていた事は誰も気づかなかった。 |