リク:きみがほしいのです





二人の様子がおかしいのに気付いたのは最近。

「兆野」
「んあ?」
「はぐ!」
「んぶぶ!?」

木舌がいつにもましてスキンシップが激しくなりまして。この日など、骨が折れそうなほどまでに強く抱きしめられ窒息しかけてしゃれにならなかった。

「木舌、俺、死ぬ!」
「――・・・死んでも、いいよ?」
「!??!??」

耳元で囁いてきた声に鳥肌がブワァとなり、助けを呼んだ。
佐疫がものの数秒で現れて木舌をミンチにした後、同じように俺にハグしてきた。

「俺のものに触らないでよね」
「!??!?」

最近、佐疫もこんなふうだ。

昨日なんて、就寝前に佐疫につめよられた。

「兆野、俺と一緒にいるのが一番だよね?俺だけだよね?」
「え??あの??」
「俺だけって、言ってよ。ねえ、兆野?」
「あー・・・あれだ、そのおやすみなさいいい!!!」

なんか、脅迫じみた言い方が急に怖くなって適当な理由つけて自室に飛び込んだ。さすがに自室までは追いかけてこず、寝た。





そんな次の日。




「・・・おう」

部屋をでたくないぜ!
兆野です。兆野なんですけど最近、木舌と佐疫の様子がおかしいです。昨日もおかしかったし。いんやみんなの前だと普通なんだけど!普通なんだけど!!俺と二人きりになったり他の人がいなくなったりするとおかしくなりますもう多重人格みたいなレベルでおかしいです!!

そんな感じで他の奴らとなるべく一緒に居て過ごしてきたわけですが、それにも限界というものがあり――、なんと!今日、佐疫と木舌の三人しか館にいません!
肋角さん、災藤さんは共に閻魔庁へ。他の奴らは任務。俺は休みで、佐疫と木舌が留守番!かくなるうえは、キリカさんのいる食堂に居座るしか・・・

扉がコンコンとなった。あっ。もうフラグ。

「兆野、起きてる?起きてるよね?」
「オッ、オキテマス!」

佐疫さん昔はもっと優しい言葉だったのに。
ここで黙ってるとでてくるまでずっとドアを叩き始める事はつい数日前に判明したので慌ててドアをあけた。目の前にはにっこりと笑みをみせる佐疫がいる。何気なく手をぎゅっと掴まれた。なんだこれ。

「兆野、あのね」
「あ、うん、おう、はい」
「俺――」
「兆野ー」

木舌の陽気な声。
佐疫の威圧感の混ざった空気が換気され、ドキドキしている胸をおちつかせる。木舌いいところにきた。来なくていいんだけど!いいんだけど、今この瞬間だけは助かった。

とか思ったけど、佐疫の優しいはずの口から盛大な舌打ちが聞こえて身が強張る。

「佐疫、兆野がいやがってるよ?」
「なにが?兆野が俺の事で嫌がるわけないでしょう?ねえ?」

水色の瞳がこっちを優しく、けれども突き刺すように見る。
ひえ。

「ほらあ。嫌がってる。兆野、おれと一緒に飯食べに行こう!」

佐疫の手を振り払い今度は木舌が俺の手を掴んで引っ張ろうとする。まだ返事も何もしてないってのに。そうすると今度は佐疫が俺の腕を掴み引き寄せようとする。

「勝手に決めないでよ。兆野はこれから俺の部屋でお茶会するんだから。ねえ?」
「えっ、あ、え?」
「佐疫も強引だなあ。下心丸見え」
「木舌こそ」

なんだこれ。嬉しくないモテ期だぞ。モテるなら女性がいい。なんなの。しかも二人とも殺気がにじみ出していて怖い。このままだとどうなっちゃうんだ?あれか、レディーファイト!ってなんのか。うわぁあ。それなにがどうあれ、よくわかんねえけど原因が俺になってるからそれでなんかあったら肋角さんに怒られるんの俺じゃね?やばくね?

ひいい。

「〜〜俺!食堂いってきああう!!!!」

舌を噛みながら叫んだ俺は二人の手を振りほどき慌てて階段を降りていく。背後から俺の名前を呼ぶ声がしたけれども今、あの二人と一緒に居たらまずい。非常にまずい。

俺は食堂に逃げ込んだ。





「――キキキリカさんん!!!飯くださいい!!!!」




けれど、そこには誰もおらず。


背後からのふたつの視線に、俺はギギギと振り返った。

そこには、穏やかに、そして有無を言わせまいという気迫をもつ二人が、いた。
目が、心なしか、澱んで。

「ねえ、兆野、俺を置いてどこにいくの?」

「兆野、こっちに――おいでよ」

一歩、一歩と近づいてくる二人。
俺は逃げ場など無く、二人に運命を任せるほか選択肢なんでなかった。
ああ、捕まったら俺はいったいなにをされるんだろうか。
むしろ、無事に、生きることができるんだろうか。



誰か、ヘルプミー・・・