リク:イドが兆野の可能性を開拓したようです



もし、兆野の身体を早く見つけていれば。

「兆野!」

心の破片をすべて揃えた佐疫達の前に現れたのはイドによって魂を抜かれ器だけの身体だけの存在になっている兆野だった。がくんと首が不自然に、首の座っていない赤ん坊のように動き、またゆっくりと正面を、佐疫達をみた。

笑った。

暗い闇の中からケタケタゲラゲラきゃはきゃはと笑う声。それと兆野の声が重なりに気味の悪い笑い声が支配する。空間から作られるように現れたのは兆野の武器である巨大剃刀。オカシク笑い続ける兆野は柄に手を伸ばすと虚ろの目がしっかりと佐疫達を見た。

「おい、佐疫。そのぬいぐるみ外套の中にしまっとけ・・・くるぞ」

田噛の言葉に、佐疫は目の前の兆野を視線から外さずに外套の中にぬいぐるみをいれる。
それをみた兆野がピタリと笑いを止めて、唾を吐いた。

「・・・シね」
「!!」

佐疫の目の前で斬島の刃と兆野の剃刀の刃が交わった。刹那にこの距離を詰めてきた兆野に、そして斬島と互角で押し合う姿に誰もが生唾を飲み込み緊迫した。

目の前の兆野は、兆野じゃない。
身体こそは兆野なのだろうが―――その中に潜むのはイドという化け物だ。

ジャラ!と鉄のこすれる音。田噛が兆野の腕へと鎖を巻き付け引っ張る。腕をずらされた兆野は斬島と押し合う事ができなくなり斬島と距離をとる為下がる。下がる時にも田噛は鎖を引っ張り姿勢をくずす。その隙を逃さないのは谷裂と平腹で、腕の不自由で上手く武器を扱えない兆野へと容赦なく金棒、シャベルをぶつける――。
が、振り下ろされた金棒は身をよじった兆野に避けられ、シャベルの切っ先は兆野の薄皮一枚を傷つけるのみ。鎖の巻き付いている腕を引っ張る兆野。その力は強く、ピンと鎖が張る。放すまい、と解かない田噛と兆野の視線が交わる。

「佐疫、撃て!」
「わかった!」

行動制限をかけられても尚、接近攻撃が当たらないのであれば遠距離攻撃だ。田噛の言葉に拳銃を取り出した佐疫は狙いを定め引き金をひく。発砲。しかし狙った先に兆野はおらず鎖を引っ張っていた田噛の方へと駆ける姿。もう一度、と銃口を向けるも田噛と被り戸惑い止まる。田噛は鎖を持つ腕を掴まれ投げられた。そして同時に緩んだ鎖からその腕を解放し、まだ宙に浮いている田噛へと剃刀を薙ぐ。

「させないよ!」
「させるか!」

佐疫の発砲された銃弾が剃刀に当たり反動でずれる。谷裂の金棒が横腹に決まり兆野の跳躍していた身体が地面へと勢いよく落ちて行く。隙を与えない。平腹が起き上がろうとしている兆野へとシャベルを突き刺そうとする。兆野の目線がそれを捉えシャベルの柄を掴む、も平腹の力には負けるのか勢いは止まらず軌道をそらす。その後すぐに地面に寝ている剃刀を斜め上に振る。平腹は避ける。そして距離をとり笑う。

「ちょーつえー!なんなんだし!!」

この場全員の気持ちはこの平腹の言葉と一致した。
身体自身は兆野だが、それにしても強い。兆野よりも戦闘なれした仲間達への一斉攻撃を多少喰らいつつも避けているのだ。そして速度は身軽な斬島よりも早く、しっかりとその姿を追いかけていないと見失う。力もそれなりにある。こいつは本当に兆野か?と疑いたくなるほどに。

投げ飛ばされた田噛は受け止めた木舌にゆっくり降ろされ、眉間に皺を寄せて立ち上がる。

「――脳は10パーセントも力を発揮していない。それ以上力を出せば身体が壊れるからだ。目の前の兆野はイドによって10パーセント以上の力をひっぱり出されてんだろ」
「早くしないと兆野の身体が壊れちゃうね」

へらっと笑う木舌に舌打ちをかます。

「木舌、お前兆野押さえつけろ」
「いいけど。その後は?」

「ミンチにしてイドを追い出す」


器を壊せば追い出せる。まだ、この世界が形成されているのならば兆野の身体の中に入り込んでいるイドは一部だ。この器を粉々に入り込む部位さえないほどに潰してしまえばでていくだろう。

「あいつは魂をもつ佐疫中心に狙ってくるはずだ。佐疫は餌になれ。そこを俺達で叩く」

田噛の容赦ない言葉に、けれど今の所それしかできない佐疫は頷いた。










――――朝日が眩しい。そしてなぜだか懐かしい。


ゆっくりと目を開けた。天井だ。館の。何をしてたんだっけか。つうか。痛いぞ。身体中がとてつもなく痛い。なんか四散したんじゃないかってくらい痛い。

俺はゆっくり身体を起こすと医務室のベッドにいた。身体中に包帯が巻かれていてミイラみたいな状態だ。何したんだ俺。じゃない。何されたんだ俺。
母の病院に平腹と行ったのは覚えてる。その場とはなーんも覚えてねえ。ええ。何。どうなったの俺。

包帯だらけの身体をじっと見下ろしていると斬島と谷裂がやってきた。俺が目を覚ましたことに驚いているのか目をまん丸として見せて、5秒とたったら俺の所に勢いよくかけてきた。

「兆野!」
「おはよう?・・・俺、なんでこうなってんの?」
「覚えてないのか。あんなに手間かけさせたというのに」
「・・・」

何したんだ俺。

まあいい、とその話を終らせた二人は、俺にもう動けるのか?と尋ねてきた。包帯事巻いてるし身体なんか痛いけど動かせないわけじゃない。そう伝えると、すぐに着替えろ、と言われた。なぜに。

「鍛錬をするぞ」
「貴様を強くしてやる」
「は?なんで??」

「「強くなれる可能性をみたからだ」」


どこか目を輝かせる二人。
・・・何やったんだよ俺!!!

それからしばらく斬島・谷裂に鍛錬鍛錬と追いかけ回された。
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